これはミナスが生んだ最高の音楽
ヘナート・モタ(Renato Motha)とパトリシア・ロバト(Patricia Lobato)の夫婦デュオにマウリシオ・チズンバ(Mauricio Tizumba)を加えたトリオ名義の新作『Terreiro Zen』。
15分半に及ぶ壮大な詩曲組曲(1)「Suíte dos Santos Pretos」に始まる、オーガニックで生命の喜びに溢れた至福の43分間。3人の声が交互に、ときには美しいハーモニーを重ねながら進行する。
じっくり腰を据えて聴くこの時間はなんて幸せなのだろうと思う。
Terreiro Zen(禅の広場)のタイトルが表すとおり、この作品にはピュアな音楽そのものが存在している。自然との関わりの中で生まれた様々な土着文化や、それらの文化の中で毎日を懸命に生きる普通の人々の生活に根ざした音楽。ビジネスのためではなく、人間が生きる中で自然に生まれた音楽。
ヘナート・モタとパトリシア・ロバトの音楽はこれまでもずっとそうだった。世紀の詩人フェルナンド・ペソアにインスパイアされた大作『Dois em Pessoa』(2004年)の頃から、彼らの音楽は常に“意識せざるアート”だった。とかくインスタントに満足感を得られる(少なくともそのような気分にさせる)コンテンツが求められている現代において、彼らの方向性は常に真逆だった。そして残念ながら、そのようなものを見かける機会すら、よほど意識しながら生活を送らない限りはほとんど無くなってしまった。
でも、いま本当に必要なものはパトリシア・ロバトの声や、ヘナート・モタのギターや、マウリシオ・チズンバのパーカッションに彩られたこのアルバムのような音なのではないかと思う。脆さの中にある強さ、完璧の中にある綻び。欲求としての生と概念としての死。聞こえてくるもの、目に入ってくるもの、手触り、言葉にならないまま浮かんでは消えていく頭の中の何か、そういった世の中の事象のすべてが愛おしく感じられてしまうような、不思議なアルバムだ。
Renato Motha – guitar, vocal
Patricia Lobato – vocal
Mauricio Tizumba – percussion, vocal
Abel Borges – percussion
Kiko Mitre – bass
Víctor Sakshin – vocal (4)