スペインのルーツを旅する傑作、ダニエル・ガルシア『銀の道』
これはびっくりするくらい良い作品が届いた。
スペインのピアニスト/作曲家ダニエル・ガルシア(Daniel García)のトリオ新譜『Via de la Plata』。アルバムタイトル“銀の道”はスペイン南西部の都市セビリアからひたすら北上しアストルガまで約705km続くローマ時代の交易路・巡礼路のこと。ルートによっては約1,000kmもあるそうだが、現在でも1ヶ月以上をかけてこの道を歩く旅人も多い。
今作はそんな風に交易路を辿り様々なバックグラウンドを持った多くの旅人や商人が集い、文化が混ざり合って発展したスペインという国のルーツを辿るような内容になっている。
なんといってもゲストが凄い。3つの宗教の聖地を持つイスラエルからクラリネット奏者のアナット・コーエン(Anat Cohen)、レバノンにルーツを持ち改造した“微分音トランペット”で唯一無二のアラビアン・ジャズを奏でるフランス人イブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)、そしてスペインが誇る文化であるフラメンコ・ギター奏者のヘラルド・ヌニェス(Gerardo Núñez)が数曲ずつゲストで参加。まさしくスペイン文化のルーツを辿るような見事な人選である。
(1)「Canción del Fuego Fatuo」はスペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャ(Manuel de Falla, 1876 – 1946)の曲で、マイルス・デイヴィスが名盤『Sketches of Spain』で英題「Will O’ the Wisp」として演奏した曲でもある。ここではイブラヒム・マアルーフのトランペットが旅情を誘う。
イブラヒム・マアルーフは(5)「The Silk Road」でも再び登場しよりアラビックなソロを聴かせてくれる。
アナット・コーエンはフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラ(Camarón de la Isla)の1979年の人気曲のカヴァー(3)「La Leyenda del Tiempo」、そしてオリジナルの(6)「Pai Lan」、(8)「Via de la Plata」に参加。近年はブラジル音楽のプロジェクトへの傾倒が目立つ彼女だが、原点回帰したような美しく優雅なクラリネットはセファルディックの極致を描く。
1961年生まれのヘラルド・ヌニェスは既にフラメンコギターの世界では伝説的な存在だ。彼が参加する(2)「Calle Compañia」と(10)「Calima」を聴くと、やはりフラメンコギターの支配力の強さを思い知らされる。
豪華すぎるゲストに目も耳も奪われてしまうが、もちろんダニエル・ガルシアのピアノをはじめキューバ出身の二人のリズムセクション──レイニエル・エリサルデ(Reinier Elizarde)のベース、ミシャエル・オリべラ(Michael Olivera)のドラムの音も素晴らしい。
これはアルバムコンセプト、内容ともに今年のジャズを代表する作品になり得るのではないだろうか。
Daniel García – piano, Fender Rhodes, synths
Reinier Elizarde “El Negrón” – acoustic bass
Michael Olivera – drums
Guests:
Ibrahim Maalouf – trumpet
Gerardo Núñez – guitar
Anat Cohen – clarinet