ノルウェーのピアニスト Kjetil Mulelid、ベーゼンドルファーを奏でる
トリオ作などが人気のノルウェーのピアニスト/作曲家、シェーティル・ムレリド(Kjetil Mulelid)の初のソロピアノ作、その名もずばり『Piano』。リリシズムとテクニックが共存する演奏はやはり頭ひとつ飛び抜けており、北欧らしい魅力的なジャズだ。そのこだわりのひとつは「ピアノ」そのものにもある。
ジャズピアニストとしての最大の課題であるソロピアノ作品の構想は2018年からあったそうだが、結果としてパンデミックがその機会を現実のものにした。録音は2020年の6月にノルウェー・ハルデンのアスレチック・サウンド・スタジオで行われ、スタジオが所有する1919年製造のベーゼンドルファー(Bösendorfer)のピアノで録音されている。このモデル225というグランドピアノは低音側の鍵盤がFまで拡張された92鍵というユニークなもので、中低音の非常に豊かな響きが特徴的だ。タイトル通り、楽器としてのピアノと、それによって可能な究極的な表現にこだわった作品だと感じられる。
例えば(4)「Point of View」は下の動画(カワイのピアノを用いている)では後半で激しい内部奏法が披露されているが、ベーゼンドルファーのピアノを用いたアルバム版では内部奏法をほとんど行なっていないのは、やはり希少なピアノを想ってのことなのだろう。
リリカルな即興演奏だけでなく、珍しい92鍵ピアノの響きにも注目してできる限り良いリスニング環境で聴きたい作品だ。
シェーティル・ムレリド(Kjetil Mulelid)は1991年生まれ。
自身のトリオ、シェーテル・ムレリド・トリオ(Kjetil Mulelid Trio)のほか、Wako、Kjemilieといったバンドのピアニストとしても活躍する。
Kjetil André Mulelid – piano