北欧の新たなジャズ・ヒロイン、アンナ・グレタ
アイスランド出身のSSW/ピアニストのアンナ・グレタ(Anna Gréta)が名門ACTからソロデビュー作 『Nightjar in the Northern Sky』をリリースした。一聴してすぐに感じられるカントリー・ジャズテイストは北欧版ノラ・ジョーンズとも言うべき、ハートウォーミングで感情の奥底を揺さぶられる素晴らしい音楽。丁寧な歌とピアノとバンド・アンサンブル、随所にセンスが光るクリエイティヴィティが大きな幸福感を与えてくれる。
米国の詩人ロバート・クリーリー(Robert Creeley, 1926 – 2005)の詩に曲をつけた(4)「The Tunnel」を除き全曲が彼女の作詞作曲。(1)「Nightjar in the Northern Sky(北天の夜鷹)」を始め、身の回りの自然や生活の営みに根ざした詩曲は穏やかで精神的な安定を感じさせる(不穏な音程の跳躍や意図的な不協和音を多用した(10)「Waiting Never Ends」はその中では異質だ)。
ちなみに宮沢賢治作品でも知られる夜鷹(ヨタカ)という鳥は主にユーラシア大陸に生息しており、スウェーデンやアイスランドでは滅多に見ることができないようだが、この作品にはそうした存在への憧憬のような感情も込められているように思う。
周りの演奏を固めるのはアート・リンゼイや坂本龍一との共演で知られるベースのスクーリ・スヴェリソン(Skúli Sverrisson)、アイスランド随一のドラマーであるエイナル・スケーヴィング(Einar Scheving)、同様にアイスランドを代表するギタリストのヒルマー・イエンソン(Hilmar Jensson)といった北欧の名手たち。
新鮮な驚き、完成度の高さ、話題性の三拍子が揃った2021年の最注目作品であることは間違いなさそう。
北欧ジャズの新星アンナ・グレタ 略歴
アンナ・グレタはアイスランドの首都レイキャビク近郊で生まれ育った。今作にゲスト参加している父シグルズール・フロサソン(Sigurður Flosason)はサックス奏者。
彼女の音楽の原体験の記憶はビートルズの「Let It Be」にあるといい、今でもそのピアノと声でシンプルだが強く訴えかける音楽の強い影響下にある。父親の影響もあり、ジャズではビル・エヴァンスに強く惹かれたようだ。
2014年にスウェーデンのストックホルムに移り、王立音楽大学で学んだ。彼女の才能はすぐに広く知られるようになり、各地のコンサートで演奏すると2015年度のアイスランド・ミュージック・アワードのジャズ部門で受賞するなど実力も賞賛されるようになる。2019年にギタリストのマックス・シュルツ(Max Schultz)と共同名義でデビューアルバム『Brighter』をリリース。今作 『Nightjar in the Northern Sky』は満を持してのソロデビューとなっている。
Anna Gréta – piano, keyboards, vocals, backing vocals
Skúli Sverrisson – bass
Einar Scheving – drums
Hilmar Jensson – guitar
Guests :
Sigurður Flosason – saxophone
Magnús Trygvason Eliassen – drums
Johan Tengholm – double bass
Ragnheiður Gröndal – backing vocals