熟練のジャズマンによる音楽の対話、そのプロセスの前後の変化が感じられる
長年フランスのジャズを牽引してきたドラマーのルイ・ムータン(Louis Moutin)、ベーシストのフランソワ・ムータン(François Moutin)の兄弟と、ハイチ系カナダ人のサックス奏者ジョウィー・オミシル(Jowee Omicil)による初の組み合わせとなるトリオ作品『M.O.M』。リズムセクションが双子だから息が合ってるとかそういうレベルではなく、三者が対等に自由な即興を通じて、目には見えない“対話”を積み重ねてゆく。
この新譜を見つけたとき、ドラムスのルイ・ムータンという名前になんとなく見覚えがあって暫く記憶を辿った。
…そして思い当たった。彼は、私がジャズを本格的に探求しはじめるきっかけとなったアーティストの一人であるジョアヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)の初期の何枚かの作品で、ミラバッシの極めて感情的なピアノに徹底的に寄り添い、ときに静かに見守るように柔らかく、ときにその激情に大波を被せるように煽るようなドラミングを聴かせてくれていた人だ。思わず当時のルイ・ムータンの音やライヴでの演奏の様子を思い出してみるが、今回の作品ではピアノという存在がおらず、代わりにあるのは比較的ハードパップに影響されたサックス。そもそもミラバッシのときと対比する意味がないことにすぐに気が付く。冒頭に述べたようにこの作品はあらゆる場面で音楽を通じた演奏家同士の対話が高い次元で成立しており、聴けば聴くほどそのコミュニケーションの美しさに虜になっていくような性質のものだからだ。
セッションが始まる前と後で、この3人の繋がりにはリスナーには量り知ることのできない何かが生まれているものと思う。この作品はそのプロセスを明らかにしている。私たちは、ただそこに想いを馳せながらじっくりと楽しむだけだ。
Louis Moutin – drums
Jowee Omicil – saxophone
François Moutin – bass