未来に生きる我々にフランスから届けられた、音の便り
2019年、コロナにより世界の構図が大きく変わる以前に、FKJはこの世界を既に視界にとらえていたのではないか。
そう思わせるような癒しと慈愛に満ちた温かな作品が再発された。
その名も『Ylang Ylang』。
イランイランといえば、アロマにもよく使われる香料の一つであり、まさに名は体を表すの言葉通り、今を生きる私たちにひと時の安息を与えてくれる。
美しいコーラスと語りから入る(1)「Earthquake」から、心の中にスッと入り込んだかと思うと、ドレイク風のベースと同郷のラッパー・BasのラップがしっかりHipHopしている(2)「Risk」でも、ギターのアルペジオが並走することで、作品全体の中で違和感を感じることなく、優しく包み込んでくれる。
そして表題曲の(3)「Ylang Ylang」はピアノインストナンバーかと思いきや、盟友であり妻でもある((( O )))がうっすらとコーラスを入れる、まさに本作を代表する1曲だ。
そもそも前作『French Kiwi Juice』もディアンジェロ味が全面に出た名盤だったが、本作が別次元の良作たる所以は、このいい意味で主張のない「普遍性」である。
コロナ前・コロナ後などの区別や隔たりは存在せず、今も昔も関係ない、自分は自分でしかないことを気づかせてくれる音がここには存在している。
そしてクライマックスを迎える(4)「Brothers」のエレキピアノの浮遊感や、(5)「100 Roses」のボイスサンプリングなどの音像は、もはやこの世界にいることを忘れ、精神世界へと連れていかれるようなトリップ感を味わうことが出来るはずだ。
何度も言うように、これは音のアロマセラピーである。
6曲21分10秒のトリップは、日常を忘れ、今を生きる私たちにひと時の安息を与えてくれる。
プロフィール
フランス出身のマルチ楽器奏者・プロデューサーのFrench Kiwi JuiceことFKJが注目を浴びたのは、AppleのCMで起用された楽曲「Tui」。印象的なピアノのイントロから入る楽曲の美しさと、CMの映像美に心つかまれた人は多いのではないだろうか。それに先駆けた2017年のセルフタイトル『French Kiwi Juice』が、ヒップホップ/R&Bのアプローチを前面に押し出した良作だったのは前述の通り。そして、2021年最新作『Just Piano』をリリースした。
自ら「音楽のセラピー効果を探求した」という最新作に至るまでの系譜として、本作『Ylang Ylang EP』が残した影響は想像に難くない。
ポートレート的な位置づけのセルフタイトルから『Tui』でのピアノアプローチ、両作を見事に融合させた本作を経て、『Just Piano』へ。
FKJは次にどこに向かっていくのだろう。いずれにせよ、我々をまた違う地平へと連れて行ってくれるに違いない。