ブラジルの自然と音楽を愛する女性歌手マイラ・マンガの美しいデビュー作【インタビュー有り】

Maíra Manga - Lá

ミナスの女性歌手マイラ・マンガのデビュー作

ブラジル・ミナスジェライスの歌手マイラ・マンガ(Maíra Manga)が待望のソロデビューを果たした。アルバム『Lá』は全曲がミナスを代表するSSWセルジオ・サントス(Sergio Santos)が彼女のために書き下ろした新曲となっており、一部の作詞はギンガ(Guinga)らとの共作でも知られるMPBきっての詩人パウロ・セザール・ピニェイロ(Paulo Cesar Pinheiro)の手による。詩的で魔法のような楽曲と演奏、そしてマイラ・マンガの歌声のすべてが調和した深く美しい作品だ。

演奏はセルジオ・サントスがギターを弾いているほか、ピアノにハファエル・マルチニRafael Martini)、クラリネットのルカ・ハエリLuca Raele)、チェロ&パーカッションのフェリペ・ジョゼ(Felipe José)という鉄壁の布陣。さらにロシアのサンクトペテルブルク・スタジオ・オーケストラ(St. Petesburg Studio Orchestra)による緻密な弦楽アンサンブルが加わっている。ドラムレス、ベースレスのため室内楽の雰囲気が強いが、良質なポップさを失わない絶妙なバランスで組み立てられた近年のミナス音楽の良さを凝縮したようなアンサンブルが、マイラ・マンガの慈愛に満ちた声にぴったりと寄り添い、風にそよぐ木々のように静かに揺れる。

アルバムのテーマはブラジルの豊かな水や自然についてだ。ヴィラ・ロボスやジョビン、ギンガやドリヴァル・カイミといったブラジルを愛した作曲家たちの系譜がセルジオ・サントスやパウロ・セザール・ピニェイロに連なり、エリス・レジーナやモニカ・サウマーゾといった稀代の歌声の系譜がマイラ・マンガに繋がっている。

確かに“ヴォーカルは楽器の一部”とする考え方もあるが、この作品のように突出して美しく優れた歌を聴くと、音楽というものの初期衝動にはやはり人間の歌への強い欲求があったのだと思い知らされる。まず最初に歌があり、楽器はその補助として発展してきたものなのだ、と。

(1)「Lá」

(5)「Raoni」はアマゾンに住む先住民族カヤポ族のリーダーで環境保護活動家でもあるラオニ・メトゥクチレ(Raoni Metuktire)をテーマにしている。メトゥティレは熱帯雨林の開拓を推進する政府に対し、彼らが環境破壊で得る利益であるお金を指して「piu caprim」=「悲しい葉っぱ」と呼び、お金とは命のない無用なもので、害と悲しみしかもたらさないと指摘している。

過度な資本主義経済によって危機に瀕した自然環境について歌う(5)「Raoni」

(9)「Romances」はブラジル最高のピアニスト、アンドレ・メマーリ(André Mehmari)のピアノを唯一の伴奏とし親密で表現力豊かな演奏を聴かせてくれる。メマーリのピアノは(いつものように)単なる伴奏ではなく群を抜いた表現力でヴォーカリストと一緒に歌う。

(11)「Margem Derradeira」にはクリチバ出身の混声ヴォーカルグループ、ヴォーカル・ブラジレイラォン(Vocal Brasileirão)も参加。いくつものレイヤーに重なる声と、ルカ・ハエリのクラリネットの掛け合い、ギターやパーカッションの響きがとても美しい。

アンドレ・メマーリとの共演で歌う(9)「Romances」

マイラ・マンガ インタビュー

ブラジルへの想いや、心を込めて歌うことの素晴らしさが伝わってくるこのアルバムについて、マイラ・マンガ本人にいくつかの質問をしてみた。

── 歌手としての経歴を教えていただけますか?

Maíra Manga 私は音楽に溢れる家庭に生まれました。父のセリオ・マンガ(Célio Manga)は作曲家でもあり歌手でもあって、私はよく父と一緒に家で歌っていました。18歳になったときにオペラのコースに入学し本格的に音楽を学びはじめ、歌手として卒業しましたが、音楽院でのクラシックの勉強と同時にブラジルのポピュラー音楽への情熱も持ち続けてきました。

── このアルバムはセルジオ・サントスが12の新曲をあなたに提供していますが、アルバムができるまでの経緯を教えてください。

Maíra Manga アルバムを録音しようと思っていて、そのことをセルジオ・サントスに話してみたの。そしたら彼が新曲を聴かせてくれて、ぜひ歌いたいと思ってアルバムの構想を練っているうちにどんどんセルジオのレパートリーに入り込んでいってしまって、その間にも彼は新曲を作曲してくれて…。
そんなわけで、この『Lá』はセルジオ・サントスと詩人パウロ・セザール・ピニェイロの最近の活動をまとめたものになっているのです。

── ポルトガル語の歌詞は理解できませんが、素晴らしい音楽であることは伝わってきます。
このアルバムを通して、リスナーに伝えたかったことは?

Maíra Manga そうですね、歌詞の内容は愛について、自然について、そしてブラジルの豊かな自然への愛とそれを守ることの大切さについて歌っています。ブラジルは今とても危機的な状況にあり、自然を守るために注意深く行動し、話し合うことが必要なのです。

たとえば(2)「Amazônia-Mãe」では歌詞にアマゾンを流れる川の名前が登場し「すべての自然は水から生まれる」と歌っていて、これは川を大切にすることを思い出させてくれます。
(5)「Raoni」はブラジルの先住民に敬意を表して作られた曲です。ラオニは先住民の代表として、森林保護や先住民の権利のために戦ってきたことで世界的に知られているとても重要な人物です。すべてのブラジル人に関係する大切な問題が、詩的な表現で歌になっています。

── 今回のアルバムでいちばん気に入っている曲は?

Maíra Manga 『Lá』のすべての曲が私にとってとても大切なものなので、いくつかを選ぶことは難しいな。全部の曲がアルバムのストーリーの大切な筋になっていて、私が伝えたい物語を形作っているんだ。
セルジオ・サントスとパウロ・セザール・ピニェイロのパートナーシップはブラジルで最も美しいもののひとつです。ブラジルとブラジル音楽を代表する作曲家たちのレパートリーを歌えることを嬉しく思っています。

Maira Manga

ホーザ・パッソスによる賛辞も

ボサノヴァやサンバの伝説的な存在であるホーザ・パッソス(Rosa Passos)もこのアルバムに祝辞を寄せている。

自由な鳥のように透き通った歌声を持つマイラは、歌と手を取り合い、森と森、川と川、鳥と鳥、音符のマントに包まれた母なる大地に抱かれて、音楽の冒険をするように私たちを誘います。

jornalggn.com.br

ブラジル音楽の豊かな歴史を内包するマイラ・マンガのこのアルバムは、自然の恵みに感謝し、人間の善なる心を信じ、そして音楽や芸術を心から愛してやまない人々による極めて純粋な、そして大きな価値のある贈り物だ。

Maíra Manga – vocal
Sérgio Santos – guitar
Rafael Martini – piano, accordion
Luca Raele – clarinet
Felipe José – cello, percussion

Guests :
André Mehmari – piano (9)
Vocal Brasileirão – chorus (11)
Rodolfo Stroeter – contrabass (11)

St. Petesburg Studio Orchestra

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