多様なアイデンティティが導くルシア・ヂ・カルヴァーリョ新譜
アンゴラ出身、フランスでブラジル音楽グループSom Brasilのヴォーカリストとしても活躍した女性シンガー、ルシア・ヂ・カルヴァーリョ(Lucia De Carvalho)の3rdアルバム『Pwanga』がリリースされた。アルバムタイトルはアンゴラの農村で笑顔の写真を撮るときの決まり文句「Pwanga ni puy?(光か闇か?)」…「Pwanga!(光!)」というところから来ているようだ。
本作のサウンドは実に多彩で素晴らしい。
アフロ・ブラジル色の強い(1)「Somahaka」に始まり、ブラジルの重鎮SSWシコ・セーザル(Chico César)が参加した(2)「Desperta」はインド音楽のエッセンスを貪欲に取り入れエキゾチックな魅力を放つ。
(3)「Maria」は今度はコンテンポラリー・フラメンコに大胆に寄せてきたかと思えば、ブラジルのサンバの表現を踏襲しつつ斬新なサウンドで聴かせる(7)「Tristeza」といったように彼女のサウンドの振れ幅はかなり広い。
そんな中でも、英語で歌われる(6)「Harmony」はパーカッション中心のアンサンブルに乗せて現代社会へのストレートな想いが表現され、親しみやすい楽曲だろう。
全体として現代的に洗練されたサウンドながら、プリミティヴな音楽のエネルギーが失われずに表現された稀有な作品だ。
Lucia De Carvalho プロフィール
ルシア・ヂ・カルヴァーリョはアンゴラに生まれ、6歳の頃に母と妹とともにポルトガルに移住、12歳のときにフランス人の家族に養子として迎え入れられた。生活していたフランス北東部のマイシュトラッツハイムにたまたまブラジル音楽のバンドが訪れ、その演奏を聴いたときに長らく忘れかけていたアンゴラ人としての血が踊ったのか(アンゴラの伝統音楽「センバ」は、ブラジルの「サンバ」の原型といわれている)、以来ブラジル音楽に傾倒。そのバンド“Som Brasil”に加入し、バックコーラスからメインヴォーカルに、ダンサーから打楽器へと自身のステージを変化させながら約10年間活動した。
2008年にソロ活動を開始し、『Ao Descubrir O Mundo』(2011年)や『Kuzola』(2016年)をリリース。100%のアンゴラ人でもポルトガル人でもフランス人でもブラジル人でもないというアイデンティティは、彼女のアーティスティックな表現の根底に常に影響を与えている。