マルティニークの気鋭ピアノ奏者マハー・ボーロワ、植民地主義への抵抗を示す傑作『Insula』

Maher Beauroy - Insula

マルティニークのピアニスト、マハー・ボーロワ新作

マルティニークのピアニスト/作曲家、マハー・ボーロワ(Maher Beauroy)の2ndアルバム『Insula』は、アフロ・カリビアン・ジャズのひとつの記念碑となりそうな重要作だ。単に音楽的に優れているだけではなく、作品の中心に据えられたテーマにも揺るぎない信念があり、総合的に優れた芸術作品となっている。

近年注目のベーシストのセレーネ・サン=エメ(Sélène Saint-Aimé)や、チェリストのアニッサ・アルトメイヤー(Anissa Altmayer)といった個々の演奏も素晴らしく、さらにはアルジェリアの楽器マンドールを演奏するレダ・ベナブダラ(Redha Benabdallah)やウードを演奏するキーシュ・サーディ(Qaïs Saadi)の参加もグローバルな希望を体現する。

反植民地主義への敬意を表明した重要作

今作は反植民地主義の象徴的存在で、アルジェリア独立運動で指導的役割を果たしたマルティニーク出身の思想家/精神科医/革命家フランツ・ファノン(Frantz Fanon, 1925 – 1961)の人生や活動に焦点が当てられており、とりわけ名高い彼の著書である『黒い皮膚・白い仮面』(1952年)と『地に呪われたる者』(1961年)からのテキストの朗読が随所に挿入されている。

マルティニークの歴史についてはWikipediaが詳しいが、1658年には入島したフランス軍によって抵抗する島民が虐殺・絶滅させられ、その後、黒人奴隷によるプランテーション農業で経済的に発展しフランス本国に莫大な利益をもたらし、肌の色によって全ての序列が決定される階層社会が成立した。エメ・セゼール(Aimé Césaire, 1913 – 2008)やフランツ・ファノンはこうした植民地主義を強く批判し、多くの島民に自身の祖先がアフリカ人であることを思い出させたが、マリティニーク島は未だにフランスの海外県という扱いから脱却できずにいる。

(2)「Ki Moun Ou Yé」

この作品で訴えられていること。それはマルティニークやアルジェリアといった日本にとっては地理的にも精神的にも遠い国の出来事かもしれないが、人類が歴史の中で繰り返してきた誤ちという意味ではどの時代・国にも当てはまる普遍的な要素であるようにも思う。

人類は賢いはずだ。賢い人は、歴史から学べるはずなのだ。

Maher Beauroy プロフィール

マハー・ボーロワは1987年フランス領マルティニーク生まれ。5歳でピアノを弾き始め、県都フォール=ド=フランスの音楽アカデミーでクラシック音楽を学び、2006年・19歳でパリに渡り、2014年には米国ボストンのバークリー音楽大学に入学。2017年には同校でピアノ部門でパフォーマンス賞を受賞している。
2019年にデビューアルバム『Washa !』をリリースし、高く評価された。

(3)「Insula」

Maher Beauroy – piano
Sélène Saint-Aimé – contrabass, vocal (3)
Boris Reine Adelaïde – percussion
Djiéka Légré – percussion
Redha Benabdallah – mandole
Qaïs Saadi – oud, vocal (10)
Christophe Zoogones – flute
Tony Bird (Antoine Beux) – violin
Thomas Raso – violin
Anissa Altmayer – cello
Florence “Flo” Baudin – voice

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