新鋭サックス奏者Asaf Harris、多くの含蓄のある傑作デビュー作
ニューヨークのニュースクールで学び、優れたパフォーマー/作曲家/即興演奏家に対して贈られる「ジョン・コルトレーン賞」を受賞したイスラエル出身のサックス奏者、アサフ・ハリス(Asaf Harris)のデビュー作 『Walk of the Ducks』がリリースされた。
この作品は冒頭、最初のほんの数秒で傑作を確信する類の素晴らしいアルバムだ。
ニュースクールを2020年に卒業後、パンデミック発生のためにイスラエルに帰郷したサックス奏者は、同国の若手演奏家たち──そこには当サイトではお馴染みのニツァン・バール(Nitzan Bar, gt)も含まれている──を招き、驚くほどの集中力で作曲・演奏されたオリジナルの楽曲群を録音した。
(1)「Helen Court 2020 Movement I」はアサフ・ハリスのサックスとガイ・モスコヴィッチ(Guy Moskovich)のピアノで始まり、中間部ではギターのニツァン・バールの驚異的な発想のソロを存分に楽しめる。
(3)「The Gate Keeper」は、冒頭部分でイスラエル政府の新型コロナウイルス対策に抗議する民衆のデモ活動の録音が提示され、そこに激情を伝えるオムリ・ハダニ(Omri Hadani)のドラムスが乗る。続いて提示されるテーマは随所に怒りと混乱を表すかのような変拍子が挿入され、その後各人のソロへ。もうこの展開だけでゾクゾクするほどドラマチックなのだが、後半のドラムソロで再び抗議行動のサンプリングがフェードインしてきたりと、8分半におよぶ演奏は人々の叫びと相まってリスナーの感情も強く揺さぶる。
今作からのファーストシングルである(4)「Reconnecting」は、サックス奏者としてのアサフ・ハリスの魅力が存分に発揮された演奏だ。ジャズの花形ともいうべきテナーの雄叫びに、同郷の著名サックス奏者オデッド・ツール(Oded Tzur)を彷彿させる深い精神性といったところまで、強弱だけではない哲学的な表現力を見せつける。
アルバムの表題曲(5)「Walk Of the Ducks」では、ゲストにソプラノサックス奏者とアルトサックス奏者も迎え、ジャケットアートで喚起される可愛らしいイメージとは裏腹な複雑なコンポジションで、言葉に表せない音楽体験の喜びを実感させてくれる。
とにかく、このアサフ・ハリスという音楽家は、作曲力・表現力ともにおそるべき才能をデビューアルバムで証明してしまった。これからどんな音楽を聴かせてくれるのか、本当に楽しみな存在だ。
Asaf Harris – tenor saxophone
Nitzan Bar – guitar
Guy Moskovich – piano, keyboards
Omri Hadani – bass
David Sirkis – drums
Guests :
Yehonatan Cohen – soprano saxophone
Yuval Drabkin – alto saxophone