アンゴラ・ルアンダ出身のSSW、アリーネ・フラザォン新譜
アンゴラのSSWアリーネ・フラザォン(Aline Frazão)の5枚目の作品となる2022年新譜『Uma Música Angolana』は、これまでにルゾフォニア(ポルトガル語圏)を中心に世界中の音楽を吸収してきた彼女らしい、洗練されたジャジーな音楽に仕上がっている。が、そのシンプルかつ意味深なタイトルに込められた彼女の想いの強さにも同時に気付かされる素晴らしい芸術作品だ。
“アンゴラの歌”という命題じみたタイトルが象徴するように、このアルバムはアンゴラというアフリカ南西部に位置する国の音楽文化の豊かさを見事に表している。18歳までアンゴラの首都ルアンダで育ち、その後ポルトガルのリスボンに移住したアリーネ・フラザォンだが、彼女の音楽の中心には常にアンゴラの伝統的なポップミュージックがあった。それから、彼女が愛するジャズ、ブラジル音楽、カーボベルデの音楽──これらの音楽が一体となり、そのどれでもない新しい音楽を奏でている。
そして同時に、彼女の音楽からはアンゴラという国が抱える問題にも否応なく目を向けさせる。
人々の政治的無関心が招く終わりの見えない困窮、政治の腐敗、それに慣らされてしまった国民……。
彼女の歌からはアンゴラの音楽的な豊かさを讃えると同時に、そんな母国の状況への怒りも伝わってくる。彼女は、人々の心にはまだ少しのスペースがあり、そこに音楽を届けることができると考えているのだ。ストレートな“アンゴラの歌”というタイトルは、そう考えるととても深い。
アルバムは(1)「Luísa」で幕を開ける。アントニオ・カルロス・ジョビンの同名の楽曲の影響で「ルイーザ」という女性名の響きに魅力を感じていたアリーネは、このアフリカとブラジルのリズムの折衷のような魅力的な楽曲で自身の経験を重ね合わせた架空の女性像を描く。女性がなんらかの方法で話したり、歌ったり、書いたり、表現したりするたびに、人知れずそれに共感し、孤独を感じずに救われる別の女性がどこかにいるのだ、と…。
アンゴラの首都であり、自身が生まれ育った街・ルアンダをタイトルに冠した(6)「Luanda」では、この都市の対照的な二つの側面を歌う。ひとつは海と陸の境界の街が持つ独特の美しさ、非常に強烈で魅力的な色合い。もうひとつはその対極に位置するすべての社会的・政治的な困難や、見捨てられた人々の悲惨さ。これは芸術家としてのアリーネ・フラザォンが探求するテーマであり、関心事なのだ。
アルバムにはアンゴラを代表するSSW、パウロ・フローレス(Paulo Flores)の楽曲のカヴァー(5)「Fumo」も。
(7) 「Luz Foi」は今作でもっともお薦めしたい楽曲のひとつで、抽象的にアンゴラ・ルアンダへの愛と、その故郷を愛しているからこその行き場のない嘆きが聞こえてくる。
アリーネ・フラザォンは1988年アンゴラの首都ルアンダ生まれのシンガーソングライター、ギタリスト、プロデューサー。祖父はカーボベルデの出身。
2011年にアルバム『Clave Bantu』でデビューし、以降アンゴラのみならずヨーロッパ、ブラジルなど幅広い国々の音楽家と共演を重ねてきた。
今作ではそんな彼女の歌はもちろん、サウンド面ではトランペッターのディオゴ・デュケ(Diogo Duque)、ピアニストのマルコ・ポンビーニョ(Marco Pombinho)、ドラマーのマルセロ・アラウージョ(Marcelo Araújo)といったポルトガル勢、ベルリン在住のチェリスト、スザンヌ・パウル(Susanne Paul)、ブラジルのSSWヴィトール・サンタナ(Vitor Santana)といった多彩なゲストの活躍も聴き逃せない。