ピエール・アデルネ、ブラジルらしいサンバを表現する新譜
ブラジルのSSW、ピエール・アデルネ(Pierre Aderne)の最新作 『Vela Bandeira』は、これまでの彼の作品と比較すると驚くほど直球的にサンバに寄せた内容で、全編でサンバ特有のサウダーヂを湛える、心に深く染みるアルバムに仕上がっていた。
ピエール・アデルネ自身の内省的で含蓄のあるヴォーカルは今作でも変わらず健在。これまでの作品ではギターを弾いているイメージが強かった彼だが、今作では主にカヴァキーニョを弾き、軽やかに“ブラジル的”とした言いようのない繊細な感情を見事に表現する。楽曲の多くはピエール・アデルネと他ゲストとの共作で、目立つところでは(3)「Saudades Daquele Brasil」 でのガブリエル・モウラ(Gabriel Moura)や、(9)「A Cor Dos Teus Olhos」のフランシス・ハイミ(Francis Hime)、(10)「A Saudade e o Silêncio」でのメロディ・ガルドー(Melody Gardot)あたりは特筆しておくべきだろう。
アルバムはどの曲も必要最小限、かつ最適な編成で生々しい録音やミックスが施されており、感情移入の度合いは抜群。囁くようなピエール・アデルネの声とともに、1オクターヴ上で女性シンガーがユニゾンしたり、複数のヴォーカリストによるコーラスが多用されるなどサンバのツボを押さえた展開がどこまでも心地いい。
実験的だったり、新しさを感じさせる部分はほぼ無いものの、ブラジルの音楽の伝統が最も魅力的な形で表れた素晴らしい作品だ。
Pierre Aderne プロフィール
ピエール・アデルネはフランス生まれ。母親はブラジル人、父親はポルトガル人で、1歳の頃にブラジルのリオデジャネイロに移住、その後ブラジリア大学の教授を務めた両親の都合でブラジリアに移住している。
当初はロックバンドを組み活動していたが期待する成功は得られず、1990年代にバンドを解散させソロのキャリアへ。その後もしばらくは自身の音楽では商業的成功は得られなかったが、レーベルを立ち上げ主要なサッカークラブのアンセムを収録した何枚かのCD作品をリリースし、そのうちの最も成功した事例ではリオとサンパウロの日刊紙に掲載されるなど大きな成果を得た。
2005年の自身のアルバム『Casa de Praia』がヒットし、“ブラジルのジャック・ジョンソン”と評されるなど大きな話題となり、ここ日本でも認知が一気に拡大。その後は傑作として名高い、亡き母に捧げた2nd『Alto Mar』(2007年)のヒットなど飛躍し、同年には初来日公演を行うなど評価を確立した。