社会的エッジも際立つペドロ・ルイス×ユリ・ケイロガの新譜
ペドロ・ルイス(Pedro Luís)といえば、1990年代の後半にシコ・サイエンス(Chico Science)やレニーニ(Lenine)らのグループと共に、ブラジリアン・ロックを代表するバンド「ペドロ・ルイス・エ・ア・パレヂ(Pedro Luís e a Parede)」でカリスマ的な存在感を放っていた人物の名前として記憶している方も多いだろう。1997年の『Astronauta Tupy』での衝撃的なデビューから『É Tudo 1 Real』(1999年)のヒットによって、ロックやHip Hop、ファンクやブラジルの伝統音楽などを見境なく融合したその音楽性の虜になったのは筆者も同じである。
そんなペドロ・ルイスの2022年の最新作『Terral』は、彼の最高にかっこいい過去曲に焦点を当てながら、ペルナンブーコのプロデューサー、ユリ・ケイロガ(Yuri Queiroga)がエレクトロニックの要素を加えて蘇らせた一大プロジェクトだ。
より官能的に再生した(3)「Soul +」や(4)「Seres Tupy」、そして日本を富める国の象徴と捉え、そんな国でも貧困にあえぐ人々がいることを想像しよう、そして対照的にブラジルの貧しい人々にも価値ある宝物があるということを想像し、“豊かさ”に気付こうと問いかける(8)「Miséria No Japão」など、馴染み深い楽曲群が現代的なサウンドで蘇生される。
かつて一世を風靡したマンギビートの熱さとは異なるサウンドだが、根底に流れる想いは当時のものと変わらない。社会的な問題、それでも続く日常生活、家族の繋がり、そして緊急性を孕む環境問題など、ペドロ・ルイスの音楽の根幹を形成するテーマは今も変わらない。