イスラエル・ジャズ最高峰のメンバーが集ったピアノトリオ作
長らく音楽界から姿を消し、近年復帰したばかりにも関わらず既にイスラエル・ジャズ・シーンの中心的存在になりつつあるベーシスト/作曲家のヨセフ・ガトマン(Yosef Gutman)が、ピアノトリオ編成による新作『Upside Down Mountain』をリリースした。
メンバーにはサックス奏者のダニエル・ザミール(Daniel Zamir)やベーシストのアヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)のバンドでの活躍で知られ、北アフリカや地中海の音楽にも精通した中堅ピアニストのオムリ・モール(Omri Mor)と、ピアニストのシャイ・マエストロ(Shai Maestro)のトリオをはじめ様々なバンドで活躍する若手ドラマーのオフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya)が迎えられており、現在のイスラエル・ジャズ界隈の最高峰であることは間違いない。
普段はアップライト・ベース(コントラバス)のイメージの強いヨセフ・ガトマンだが、今作では5弦アコースティック・ベースを演奏。本来のベースの役割である低音から、和音弾きやシーケンス、高音弦での主旋律やソロまで幅広い音域で躍動しまさしく音楽の骨格を支える。
収録曲はほぼ全てがヨセフ・ガトマンと、彼の盟友である木管奏者ギラッド・ローネン(Gilad Ronen)の共作曲。比較的にシンプルで印象的なメロディを有する曲が多く、ブラシを多用するオフリ・ネヘミヤのドラミングも効果的だ。(9)「Poltova」のみが伝統曲のメドレーという構成になっている。
驚異的なピアニストであるオムリ・モールが今作では比較的目立たずにサポートに回っているのも興味深い。オムリ・モールのソロでは時折衝撃的なフレーズ(ex. 「The Warriors」の1’58″〜など)が登場するが、ピアノでアフリカの民族楽器コラの音を再現していると理解するとすんなり受け入れられる。オムリ・モールのフィルターを通じて、どうやらアフリカやアンダルシアの音楽的な要素が混ざり込んでいることが、本質的にジューイッシュであるはずのこのアルバムを面白いものにしている。
Yosef Gutman プロフィール
ヨセフ・ガトマン・レヴィット(Yosef Gutman Levitt, ヘブライ語:יוסף גוטמאן לויט)は南アフリカ・ヨハネスブルグから1時間程度の農場で生まれ育った。幼い頃から音楽の才能の兆しを見せ、最初にピアノ、そして10代後半でベースギターを手にとり、故郷南アフリカから米国に渡りボストンのバークリー音楽大学、そしてニューヨークに移り住んだ。ニューヨークには10年以上住み、ギタリストのリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)らと広く演奏したが、この時期は残念ながら音楽への欲求不満と無力感が高まる時期でもあった。
彼はユダヤ人としての幸福を追求する決断をしNYを離れイスラエルに移住。結婚し家族を持ち、音楽からは完全に離れ、テクノロジー系の起業家として成功を収めた。
こうして10年ほど音楽から離れていたヨセフだが、近年になってユダヤ教のハシディズム(神秘主義的運動)の伝統的なメロディーをベースに再び音楽活動を開始。2019年1月にソロデビュー作『Chabad Al Hazman』、2020年には古代ユダヤ教にインスパイアされた壮大なダブル・アルバム『The Sun Sings to Hashem』『The Moon Sings to Hashem』をリリース、2022年初頭には以前から大きな音楽的影響を受けていたブラジル音楽に傾倒した作品『Ashreinu』をリリースしている。
Yosef Gutman Levitt – bass
Omri Mor – piano
Ofri Nehemya – drums