グリオにルーツを持つ初の女性コラ奏者ソナ・ジョバルテ、11年ぶり新作は音楽の深淵を感じさせる傑作

Sona Jobarteh - Badinyaa Kumoo

コラ奏者/SSWのソナ・ジョバルテ、11年ぶり新譜『Badinyaa Kumoo』

西アフリカ、セネガルに囲まれたアフリカ大陸最小の国ガンビア共和国にルーツを持つコラ奏者/SSWのソナ・ジョバルテ(Sona Jobarteh)が、自身名義のファーストアルバムである前作『Fasiya』(2011年)以来となる待望の新譜 『Badinyaa Kumoo』をリリースした。

西アフリカのグリオの家系に生まれた初の女性コラ奏者であり、イギリスで西洋音楽の教育を受けながらも伝統的なグリオの文化を伝え続けるソナ・ジョバルテにしか為し得ない、彼女の“レジェンド”の評価を確立する傑作と言っても過言ではない。アフリカ音楽特有の複雑で心地良いポリリズム、コラの21の弦から繰り出される風に乗って響き大地に染み渡るような音色が、現代的な音響技術によって捉えられたこれ以上ないほど素晴らしい作品に仕上がっている。

アルバムはアップテンポな(1)「Musolou」で幕を開ける。ソナ・ジョバルテはヴォーカル、コラ、ギター、ベース、パーカッションといったほとんどのパートを演奏。西洋音楽の理論に当てはめると楽曲全体が短調のトニックとドミナントマイナーの繰り返し(Fm – Cm)という極めてシンプルなコード進行ながら、7分41秒におよぶ演奏は終始圧倒的な高揚感をもたらし、音楽というものの奥の深さにあらためて気付かされる。

複雑なポリリズムと西アフリカ特有の下降フレーズが印象的な(3)「Kambengwo」にはセネガルの世界的スター、ユッスー・ンドゥール(Youssou N’Dour)がゲスト参加。
(4)「Ballaké Sissoko」はタイトルそのままだが、親交の深いマリのコラ奏者バラケ・シソコ(Ballaké Sissoko)を迎えてのあまりに美しいコラ二重奏だ。

(8)「Gambia」は2015年にシングルとしてリリースされたもの(ようやく、アルバム収録!)。
歌詞はマンディンカ語で祖国ガンビアの美しさを歌っており、“祖国を忘れることは自分を忘れることと同じ”という歌詞にも彼女の想いが汲み取れる。こちらもDm – B♭ – F – Cというシンプルなコード進行が延々と繰り返され、ソナ・ジョバルテによるギターの定型が通奏され、様々な展開を見せる洗練されたリズム、コーラスがどこまでも気持ちいい。

故郷への想いを寄せた(8)「Gambia」のMV。

(7)「Ubuntu」はズールー語で歌われている。ウブントゥといえばコンピュータのオペレーション・システム(OS)の名称として広く知られているが、これはもともと「あなたがいてくれるから私がいる」、つまり謙虚さや感謝の気持ち、思いやりをもって周りの人々と生きることを意味する言葉だ。ここではコラの響きや落ち着いたソナ・ジョバルテのヴォーカル、男声のバッキング・ヴォーカルが印象深い。

ゲストも充実している。
(2)「Dunoo」にはグリオの家系出身の若きパーカッション奏者/歌手ムサ・フィリ・ジョバルテ(Musa Filly Jobarteh)が、(6)「Kafaroo」にはイスラエルのミクスチャー集団イエメン・ブルース(Yemen Blues)を率いるラヴィッド・カハラニ(Ravid Kahalani)が、(9)「Nna Kangwo」にはハーモニカ奏者のジョック・ウェブ(Jock Webb)が、そして(10)「Nna Mooya」には米国のサックス奏者カーク・ウェイラム(Kirk Whalum)が参加。

ソナ・ジョバルテのコラの師でもある父サンジャリー・ジョバルテが彼女に教えた最も難しい課題に、「自分自身のサウンドを見つけなさい」というものがあった。
西洋音楽を深く学んだ彼女自身、西アフリカの伝統音楽ではなくもっと世界的に認知されているジャンルの方がより多くのファンを獲得できたのでは、と思い悩んだこともあったようだ(彼女であれば、実際にそれは可能だっただろうと思う)。しかし実際には、彼女は自身が信じた音楽での成功を目指すことを選んだのだ。

ソナが長い時間をかけて完成させたこの作品には、父親の教えに対する答えがぎっしりと詰まっている。

(8)「Gambia」のライヴ演奏動画。

Sona Jobarteh 略歴

ソナ・ジョバルテは1983年イギリス生まれ。西アフリカの代々続くグリオ(吟遊詩人)の主要な5つの家系のうちのひとつに生まれ、マリからガンビアに移住したコラ奏者のアマドゥ・バンサン・ジョバルテ(Amadu Bansang Jobarteh)は彼女の祖父、そしてマリのコラ奏者トゥマニ・ジャバテ(Toumani Diabaté)は従兄弟にあたる。

瓢箪の共鳴胴から長いネックが伸び、21本の弦が張られた伝統楽器コラとその演奏技術はグリオの家系では代々父親から息子へと受け継がれてきたため、これまでプロの演奏家となるのは男性ばかりだった。ソナ・ジョバルテは3歳の頃から11歳年上の兄トゥンデ・ジェゲデ(Tunde Jegede)や父親のサンジャリー・ジョバルテ(Sanjally Jobarteh)からコラを学び、伝統的なグリオの家系における初めての女性のコラ奏者となった。

イギリスのパーセル音楽学校、王立音楽学校でクラシック音楽や作曲、チェロ、ピアノなどを学び、学生の頃から様々なオーケストラとの共演など様々なプロジェクトで活躍し注目を浴びる。
これまでに映画音楽なども含め複数のプロジェクトで音源を残しているが、自身名義の作品としては2011年の『Fasiya』以来、実に11年ぶりの新譜が今作『Badinyaa Kumoo』である。

彼女はまた、社会的にも意義のある活動を行なっている。故郷であるガンビアには2015年に「ガンビア・アカデミー(Gambia Academy)」を設立(今作ではいくつかのバック・コーラスにガンビア・アカデミーの学生が参加している)。固定化されたアフリカの教育の枠組みに批判的に挑戦し、教育改革のプロセスをアフリカ全土の新世代に拡げるため、誇りと信念を持って取り組んでいる。

クレジット

(1)「Musolou」

Sona Jobarteh – vocals, kora, bass, percussion, guitars
Melissa Hei – djimbe
Lansiné Kouyaté – balafon
Mphoh Mckenzie – backing vocals
Marcina Arnold – backing vocals
Eric Appapoulay – strum guitar
Westley Joseph – drums

(2)「Dunoo」

Sona Jobarteh – vocals, guitars, percussion, bass, drum programming
Musa Filly Jobarteh – vocals, kutirindingo, kutiriba, sabaro
Femi Temowo – drum programming
Westley Joseph – toms

(3)「Kambengwo」

Sona Jobarteh – vocals, rhythm guitar, kora
Youssou N’Dour – vocals
Eric Appapoulay – strum guitar, backing vocals
Christian Obam – bass
Abdoulaye Lo – drums
Westley Joseph – drums
Thio Mbaye – sabar
Mamadou Sarr – djimbe
Yatma Thiam – tama
Miroca Paris – conga, percussion
Robin Hopcraft – trumpet
Idris Rahman – saxophone
Hakim – additional programming

(4)「Ballaké Sissoko」

Sona Jobarteh – kora, guitar
Ballaké Sissoko – kora

(5)「Fondinkeeya」

Sona Jobarteh – vocals, guitars, bass, percussion
Westley Joseph – drums
Miroca Paris – conga, brushes
Gambia Academy Students (Rohey Badjie, Hulaynatou Jallow, Mariama Saho) – chorus

(6)「Kafaroo」

Sona Jobarteh – vocals, guitar, kora, calabash, percussion, bass, strings arrangements
Ravid Kahalani – vocals
Bruce White – violin, viola
Sidiki Jobarteh-Codjoe – chorus
Eric Appapoulay – chorus

(7)「Ubuntu」

Sona Jobarteh – vocals, rhythm guitar, kora, calabash, bass, percussion
Eric Appapoulay – acoustic guitar, backing vocals
Risenga Makondo – backing vocals
Luyanda Jezile – backing vocals
Roger White – backing vocals

(8) Gambia

Sona Jobarteh – vocals, guitars, kora, bass, BVs, percussion
Usman Kanuteh – guitar solo, ghorus guitar
Musafily Jobarteh – seruba, djimbe, sabar
Mamadou Sarr – seruba
Westley Joseph – drums
Mariama Jarju – backing vocals
Saihou Kanuteh – backing vocals

(9)「Nna Kangwo」

Sona Jobarteh – vocals, calabash, bass, percussion
Jock Webb – harmonica

(10) Nna Mooya

Sona Jobarteh – vocals, guitar, piano, percussion
Kirk Whalum – Saxophone
Musa Filly Jobarteh – djimbe
Shanir Blumenkranz – double bass
Westley Joseph – drums
Saleem Raman – drums
Eric Appapoulay – backing vocals

(11) Meeya

Sona Jobarteh – vocals, guitars, percussion, bass
Miroca Paris – conga, brushes
Saleem Raman – drums

(12) Taariko

Sona Jobarteh – vocals, kora, cello, guitars, calabash, djimbe, percussion, bass
Zihirina Abdoulahi Maiga – vocals
Ehya Assaleh – ngoni
Sona Jobarteh and Eric Appapoulay – backing vocals
Saleem Raman – drums

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