ユダヤの伝統にインスパイアされた壮大な叙情詩、イスラエル・ジャズの新たな扉

Yosef Gutman Levitt - The Sun Sings to Hashem

ヨセフ・ガトマン・レヴィットが描き出す、ユダヤの壮大な叙情詩

2019年にリリースされたイスラエルのベーシスト、ヨセフ・ガトマン・レヴィットYosef Gutman Levitt, ヘブライ語:יוסף גוטמאן לויט)のデビュー作『Chabad Al Hazman』は全く宣伝されずほとんど話題にならなかったが、パーカッションにイタマール・ドアリ(Itamar Doari)、ピアノに2018年のセロニアス・モンク国際ジャズコンペティション優勝者のトム・オーレン(Tom Oren)、そして卓越したウード奏者エイモス・ホフマン(Amos Hoffman)ら豪華メンバーが揃った隠れた傑作だった。

そんな彼が、自らのルーツを探究し、さらに進化した姿を見せたのが2020年9月末に同時発売されたダブル・アルバム『The Sun Sings to Hashem』『The Moon Sings to Hashem』だ。

万物は歌う。月と太陽も。

古代ユダヤ教には、自然界の万物は歌を歌い、歌うことで成長しその歌自身に乗り移るという考え方があった。その魂のこもった歌は“ニーグン(Niggun)”または“ニグニム(Niggunim)”と呼ばれ、瞑想を呼び起こす役割をもっているという。ヨセフ・ガトマン・レヴィットの美しい2枚の新譜は、そんなニーグンからインスパイアされた大作だ。

太陽がハシェム(神)に歌うニグニムをイメージした『The Sun Sings to Hashem』、そして月が歌う『The Moon Sings to Hashem』。そこには古代中国の思想、陰陽にも通じる二元論的な哲学も垣間見える。倍音を多く含んだ明るい音色の曲が多い『The Sun Sings 〜』と、夜のしじまを漂うようなゆったりとリラックスした『The Moon Sings 〜』。ジャズの自由と、伝統音楽から強く影響を受けた叙情的な側面が見事なバランスで組み合わされ、他にない強烈な個性を醸し出している。
演奏面では、今作で楽曲のアレンジやサックス、フルートなど木管楽器全般を担当するギラッド・ローネン(Gilad Ronen)の豊かな表現力に驚かされる。

タイトルやコンセプトを見て小難しい宗教音楽を思い浮かべるかもしれないが、心配はご無用。後述するプロフィールのとおり、様々な土地で音楽を学んできたヨセフ・ガトマン・レヴィットの音楽的視野はとても広く、ユダヤの伝統をベースにしていながらもポップス、ラテンやジャズといった他のジャンルの良い部分を取り入れることに躊躇いはない。なかなか他には類を見ない作品でありながら、その音は不思議と耳、そして心にスッと入り込んでくる。私はこの音楽にどこか懐かしさと、癒しを感じる──。

『The Sun Sings to Hashem』収録の(2)「Shirat Hashemesh V’hayareach」のMV。
ヤリン・スウィド(Yarin Swid)によるバンジョーが心地良い。
ギラッド・ローネンの演奏する木管楽器の美しさも究極的だ。

バンド編成はベースのヨセフ・ガトマン・レヴィットのほか、以前当サイトでも紹介したパーカッションのイシャイ・アフターマン(Yshai Afterman)、木管楽器全般と楽曲のアレンジを担当するギラッド・ローネンを中心に、曲によってピアノやケマンチェ、ドラムスなど様々な演奏者と楽器が加わる。

プロフィール

ヨセフ・ガトマン・レヴィットは南アフリカの人里離れた農場で生まれ育った。幼い頃から才能の兆しを見せ、最初にピアノ、そして10代後半でベースギターを手にとり、故郷南アフリカから米国に渡りボストンのバークリー音楽大学、そしてニューヨークに移り住んだ。ギタリスト、リオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)らと広く演奏した後、自らのルーツを求めてイスラエルに移住。その後10年ほど音楽から離れていたが、近年ユダヤ教のハシディズム(神秘主義的運動)の伝統的なメロディーをベースに再び音楽活動を開始。2019年1月にソロデビュー作『Chabad Al Hazman』をリリースしている。

Yosef Gutman Levitt – contrabass, acoustic bass guitar
Gilad Ronen – woodwinds, arrangement
Yshai Afterman – percussion
Yagel Haroush – nei, oud, kamanché
Yogev Cohen – guitar
Yarin Swid – banjo
Achiya Asher Cohen – piano
Alon Tayar – piano
Ido Zeleznik – keyboards, Hammond organ
Amir Bresler – drums
Neriya Mizrahi – drums
Rav Raz Hartman – vocals

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