ジャズ、ボサノヴァ、クラシックそして稀代のポップセンスを持ち合わせた新世代SSW、レイヴェイ

Laufey - Everything I Know About Love

時代が移ろうとも普遍の価値観を示す、新世代SSWレイヴェイ

アイスランドのシンガーソングライター、レイヴェイ(Laufey)のフルレンス・デビューアルバム『Everything I Know About Love』が素晴らしい。アイスランド人の父と中国人の母の間に1999年に生まれ、ピアノとギター、チェロを弾き、米国バークリー音楽大学で学んだという彼女のこの作品は、個人的にはグラミー賞で7冠を達成したあのノラ・ジョーンズのデビュー作のときと同種の衝撃と感動を覚えた。

アルバムはレイヴェイ自身が弾くジョアン・ジルベルト直系のバチーダ(ボサノヴァに特徴的なギター演奏のスタイル)を基本リズムとする(1)「Fragile」で始まる。洗練されたコード進行に乗せるメロディのセンスが素晴らしく、低音に魅力のある少しハスキーな声と曲調の相性もぴったり。ギターのコードもトップノートが常にGの音に固定されており動かず工夫されている。極めつけはサビ終わりの“〜fragile”の部分で、ギターは最初のコードFm7(9)に戻るのだが、ここで歌の音程はコードトーンであるE♭(短7度)と半音でぶつかるD(6度)の音にいっており、引っかかった印象を与えつつ次のコードFm6(9)への進行を促す。

(1)「Fragile」のMV。
コードはFm7(9), Fm6(9), B♭7(13), E♭M7, Edim この5つしか登場しないが、いずれもギターの和音の最高音が「G」の音で固定された美しい進行だ。

地下鉄で思いがけず出会った素敵な人を歌った(2)「Beautiful Stranger」、ロマンティックなジャズ・バラード(3)「Valentine」(TikTokで爆発的な人気を得た)など、往年のスタンダードかと思わせるような名曲が続く。彼女自身、歌って演奏もするパフォーマーだが、作曲家としての才能が随所で光る。

“もしもこの世界が完璧だったら、私はあなたに出会うことはなかったでしょう”と歌う(8)「Just Like Chet」も泣かせる。ここでの“あなた = Chet”とはもちろん、才能と名声に恵まれながらも自ら破滅の道を選び、悲劇的な最期を迎えたチェット・ベイカー(Chet Baker, 1929 – 1988)を指す。この一節は、若く華があり、SNSでも大きな影響力を持つ彼女のジャズへの深い愛を象徴しているように思う。
この曲の中で“私は愛について何も知らない”と歌うが、「G線上のアリア」に導かれる次の曲が「Everything I Know About Love」というタイトルなのも面白い。

「G線上のアリア」から導かれる(9)「Everything I Know About Love」

彗星のように現れた新たな才能、レイヴェイ。
彼女の音楽は広義のクラシック・ミュージック=古典的な音楽が軸となっている──ジャズもボサノヴァも、そろそろ広義のクラシックに含めて良いだろう…──が、伝統を単に古いものと軽視せず、そこに人類が積み重ねてきた叡智という観点から価値を見出し、さらに自らの人生で得た経験を反映し、表現やアートとして説得力を持たせ成立させている。

TikTokやInstagramなどSNSでも圧倒的な支持を得る彼女のこうした繊細なセンスは、ジャズやボサノヴァといった音楽文化の伝承において自然と多大な影響を持ってゆくことだろう。

TikTokから火がつき、Spotifyのジャズ・チャートで1位を獲得した(3)「Valentine」のピアノ弾き語り。

Laufey プロフィール

レイヴェイ(Laufey, 本名:Laufey Lín Jónsdóttir)は1999年アイスランド生まれ。え、その綴りでその発音!? と思うかもしれないが、本人はそのように発音している

母方の祖父リン・ヤオジ(Lin Yao Ji, 林耀基, 1937 – 2009)はクラシックの著名なヴァイオリン奏者で、北京に本部を置く中国随一の音楽学校である中央音楽学院の教授を務めていた。母親もヴァイオリン奏者で、レイヴェイ自身も幼少期からクラシックの音楽教育を受けている。
アイスランド人の父親はジャズの愛好家で、彼が好んでいたエラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイといった女性ジャズ・ヴォーカリストのレコードもレイヴェイの音楽性に大きな影響を与えた。

15歳でソリストとしてアイスランド交響楽団と共演。
2014シーズンのÍsland Got Talent(America’s Got Talent のアイスランド版)に参加し、ファイナリストとして終了。翌年、彼女はThe Voice Icelandにも出場し、準決勝まで進んでいる。

2020年にデビューシングル『Street by Street』をリリースし、 Icelandic Radioでチャート1位を獲得。2021年4月には最初のEP『Typical of Me』をリリースした。

彼女のTikTokアカウントには、すでに約60万人のフォロワーがついている。

双子の妹ジュニア・リン(Junia Lín)もヴァイオリン奏者で、姉レイヴェイとは度々ライヴなどで共演している。

アルバムのラストを飾る美しいバラード(13)「Night Light」

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