ブラジリアン・サイケポップの注目作、トゥリッパ・ルイス新作
米英のロックやファンク、ポップスと、ブラジルの伝統的な音楽文化を巧みに融合させたその豊かな音楽性をして“Pop Florestal(森のポップ)”を体現するブラジル・サンパウロのSSW、トゥリッパ・ルイス(Tulipa Ruiz)の2022年新譜『Habilidades Extraordinárias』。トロピカリアのサイケロックやノルデスチ音楽、ファンキ・カリオカなど多様なブラジルの音楽を飲み込んだ好盤だ。
全体的に半世紀前を感じさせる生々しいバンド・サウンドだが、今作はアナログテープを使用し、できる限りデジタルなサウンド処理のプロセスを最小限にして制作されているためのようだ。これは表現そのものであるアートの制作プロセスと、効率化とスピードばかりが重視される現代社会の傾向の対比であり、それ自体が彼女からの強烈なメッセージとなっている。比較的シンプルなリズム、ファンクらしく動きのあるベース、そして幾重にも重ねられた各種ギターが特徴的で、トゥリッパ・ルイスのヴォーカルは時折パンキッシュな顔も覗かせる。
ラストの(11)「O Recado da Flor」にはMPBのレジェンド、ジョアン・ドナート(João Donato)がゲスト参加。ボサノヴァを経由した音楽家らしく落ち着きがありつつも軽やかで、そんな中に少しの狂気も感じさせる奇天烈なトラックとなっている。
Tulipa Ruiz プロフィール
トゥリッパ・ルイスは1978年サンパウロ生まれ。名前の由来は父親のお気に入りだった映画『The Black Tulip(黒いチューリップ)』からという。
両親の離婚後、母親と弟のグスタヴォ・ルイスとともにミナスジェライス州のサン・ロウレンソに移住しそこで育った。22歳で再びサンパウロに戻り、大学でジャーナリズムを学ぶと約10年間ジャーナリストとして働いている。
大学時代から多くのアンサンブルに参加していたが、歌手としての正式なキャリアを開始したのは2009年から。弟でギタリストのグスタヴォ・ルイスを作曲のパートナーとし、高く評価されたデビュー作『Efêmera』から破竹の勢いで人気を獲得し、2015年の3rdアルバム『Dancê』はラテン・グラミー賞を受賞するなどブラジルのポップス(MPB)を代表するアーティストとなっている。