スーダンのバンド、Noori & His Dorpa Band
アフリカ・スーダンの紅海沿岸に生まれ育ったギタリスト/作曲家Nooriが率いるバンド、Noori & His Dorpa Band の国際デビュー作『Beja Power! Electric Soul & Brass from Sudan’s Red Sea Coast』。アルバムタイトルに冠されたベジャ(Beja)とは主にスーダン東部に住む古代エジプトから続くといわれている民族で、Nooriの出身である。
彼らのヴィデオクリップを観てみると、まずNooriが持つ異形の楽器に興味を惹かれる。
バンドの創設者であるNooriは、18歳のときにスクラップの山から拾ってきたギターのネックと、父親から贈られた伝統的なタンブーラ(あるいはクラル)と呼ばれる弦楽器を溶接した独自の楽器タンボ・ギター(tambo-guitar)を作り出した。
そのビジュアル的なインパクトもさることながら、エチオ・ジャズの影響を受けたサックスや、伝統的な音楽だけでなくレゲエや欧米のロックからも強い影響を受けたバンドのサウンド、2人のパーカッション奏者が生み出す緩いグルーヴがなんとも言えず安心感を与えてくれ、副交感神経を活性化される。
アルバムの曲は親しみやすいサウンドだが、いずれも個性的だ。金物を用いないリズム・セクションやスモーキーな2本のギターとサックスは静かながら確固たる意志でグルーヴし続け、シンプルな五音音階による万国共通の郷愁感がどこまでも気持ちいい。
アラビア語で“希望”を意味する(3)「Al Amal」、長尺の7拍子のリズムがトランス状態に誘う(6)「Daleb」などは特に面白い演奏だ。
音楽を演奏すること自体に強い意味を持つ国
スーダンはかつて豊かな音楽を持つ国だったが、1989年にオマル・アル=バシールによる軍事クーデターの後、イスラム主義政府がシャリア法を課したことで、コンサートが許可制になるなど音楽家とその聴衆に対する多くの不自由な制限がもたらされた。あからさまにイスラム教を賛美する歌を除き、多くの音楽家や作曲家は公の場から締め出され、国外に亡命したり、場合によっては投獄されることさえあった。政権による人々の権利の否定は、当然文化の衰退へとつながった。
2019年に国防軍によるクーデターによってバシール政権が崩壊すると、ようやく自由に音楽が演奏できる環境となった。それは30年来にわたって独自の文化を否定されてきたベジャの若者であるNooriにも、大きなチャンスをもたらしたのだ。
この作品で、Nooriと彼のバンドは30年間“失われていた”ベジャの音楽との対話の再開を高らかに宣言する。
彼らは自らの音楽を世界に広めることこそが最も強力な抵抗行為になると信じており、正義と公正を求め続けてきたベジャの活動家たちの絶え間ない叫びに歩調を合わせている。
Noori – tambo-guitar
Samir – bongo
Fox – conga
Gaido – bass guitar
Naji – tenor saxophone
Tariq – rhythm guitar