スペインのギター奏者ニーニョ・ホセレ、巨匠も参加も話題の新作
スペインのコンテンポラリー・フラメンコ・ギタリスト、ニーニョ・ホセレ(Niño Josele)『Galaxias』は、チック・コリア(Chick Corea)やルベーン・ブラデス(Rubén Blades)といった巨匠との共演も楽しめる最高のアルバムだ。圧倒的な技巧で繰り出される歯切れ良く乾いたギターの音も心地よく、現代的なフラメンコ・ジャズの魅力を充分に味わえる。
なんといっても、まず聴くべきは亡くなる前のチック・コリアの録音が聴ける(1)「Galaxias」だ。ニーニョ・ホセレが作曲したジャズ、フラメンコ、ラテンのフュージョンであるこの曲でチック・コリアはキーボードやモーグ・シンセサイザーを演奏しており、ソロもたっぷりと披露。70〜80年代のチック・コリア全盛期の香りも漂わせ、これがもうめちゃくちゃかっこいいのだ。自分もそうだが、こういうシンセのソロではじけるチック・コリアを聴きたかった方もきっと多いはずで、これは貴重な音源と言えるだろう。
どうしてもチック・コリアとの共演に耳を惹かれがちだが、ニーニョ・ホセレが自身の30年近いキャリアで最も完成度が高く、“8曲の銀河”と自賛する今作には他にも素晴らしい楽曲と演奏が多数収録されている。
そして、他の著名アーティストとのコラボレーションも非常に豊かだ。
現代的な音作りが印象的で、ユニークな音色のエレクトリック・ギターのスパイスも効いた(3)「La Graciosa」にはパコ・デ・ルシアと共に演奏をしてきたベテランの木管奏者ホルヘ・パルド(Jorge Pardo)がフルートで参加。
(5)「Ausencia」では女性SSW/ギタリストのロサーリオ・ラ・トレメンディータ(Rosario La Tremendita)をフィーチュア。ラテン・グラミー賞への2度のノミネートを誇る気鋭フラメンコ・アーティストである彼女の圧倒的な世界観もニーニョ・ホセレのギターが生み出す音楽と見事に融合し、フラメンコの未来を指し示す。
(6)「Caballo Andaluz」では上原ひろみやヤマンドゥ・コスタとの共演でも知られるコロンビアのアルパ奏者エドマール・カスタネーダ(Edmar Castañeda)が参加。
(7)「No Pasa Nada」は今作唯一のヴォーカル・トラックで、パナマの至宝ルベーン・ブラデスが歌う。楽曲もルベーンとニーニョ・ホセレの共作となっており、サルサ風味のフラメンコが新鮮だ。
名実ともに現代最高峰のギタリスト、Niño Josele
ニーニョ・ホセレ(本名:Juan José Heredia)は1974年にスペイン・アンダルシア州アルメリア生まれ。代々フラメンコ・ギターを演奏するロマ(ジプシー)の家系の出身で、名手トマティート(Tomatioto)の甥にあたり、彼自身もギタリスト兼歌手であった父親の手ほどきによって6歳の頃からギターの演奏を始めた。
パコ・デ・ルシアのバンドで活躍した初期を経て、多様な音楽的才能を開花させたビル・エヴァンス・トリビュート『Paz』(2006年)が話題となり評価を確立。フラメンコ歌手エンリケ・モレンテ(Enrique Morente)との長年の活動でも知られている。
ニーニョ・ホセレは伝統的なフラメンコと現代ジャズの芸術的な融合の最前線を担い続け、近年は晩年のチック・コリアのバンド「The Spanish Heart Band」でツアーするなど世界的なギタリストとしての名声を得ている。