中東的微分音とフラメンコの魔法のような融合『Pashtut』
中東の伝統音楽にみられる微分音をふんだんに用いつつ、ヨーロッパ最西端の音楽であるフラメンコの要素も融合した驚くべき音楽だった──。
イスラエルはエルサレム生まれのベーシスト/作曲家エラン・ホーウィッツ(Eran Horwitz)のデビュー作 『Pashtut』。アルバムのタイトルは“simplicity(シンプルさ)”を意味するもので、彼の人生を32分間に簡潔にまとめました、ということらしいのだが、その内容の濃密さには驚かされるばかりだ。
今作にはエラン・ホーウィッツによるオリジナルや伝統曲のほか、ジャズファンなら誰もが興味を惹くであろうカヴァーも収録。ジョン・コルトレーン(John Coltrane)の名曲(6)「Naima」は異国情緒溢れるフラメンコにアレンジされ、ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)の(7)「Havona」は4拍子の原曲を12/8拍子のブレリアとして新たな息吹が吹き込まれている。
(1)「Pashtut」はゆったりとしたリズムのフラメンコだが、旋律は西洋音楽ではまず用いられることのない微分音が意識的に用いられ、新鮮な音楽体験を覚える。曲名はアフガニスタンなどで話されているパシュトー語(Pashto)にひっかけ旋律もアラブ音楽のものを取り入れつつ、語尾にアラム語風に「t」を加え、ヘブライ語で“シンプルさ”を意味する単語で表現。
MVでは、エラン・ホーウィッツは微分音を表現するために8フレットと9フレットの間に特別なフレットが打ち込まれたベースを使用していることがわかる。
(2)「Hijaz Farsi」は結婚式など祝祭で用いられる音楽を取り入れた楽曲だが、後半ではコテコテのフラメンコの歌唱もあり、無国籍感は抜群。
(4)「Saba」は中東の伝統的なダブルリード楽器、ズルナの鋭い音色が特徴的な現代的なフュージョンで、狂喜乱舞の画が浮かぶ。
(8)「Bassush」はバルカン半島の音楽を思わせる。楽天的ながら、祭りの最後のいっときの寂寥も感じさせる複雑な感情が渦巻く良曲だ。
今作はさまざまな音楽のエッセンスが濃縮されているが、やはりその軸として感じるのは多様な文化が混ざり合うエルサレムでの体験と、アンダルシアの音楽への憧れや愛情だ。
エラン・ホーウィッツは語っている:「私の心は東にあり、私は西の端にいる」
彼の祖父は大工で、彼も幼少時から木の匂いやそのしなやかさに魅了されてきたという。
今彼は、木でできた楽器を用い、彼の人生が紡いできた物語を雄弁に語り出す。
Eran Horwitz – bass guitars, keyboards, palma, vocals
Israel Katumba – percussion, palma
Efi Zaken – percussion
Adriano Lozano – flamenco guitar
Eliyahu Dagmi – saz
Gergely Barcza – Ewi, drum programming
Yaniv Ovadia – vocals
El Cañejo – vocals
Yael Horwitz – vocals
Yona Luna – vocals
Miguel Katumba – palma
Gergely Barcza – Turkish clarinet