ナイロン弦の響きに浸る。ラルフ・タウナー新譜『At First Light』
1970年代からジャズの名門レーベルECMの看板アーティストとして半世紀にわたる活躍を続けてきたギタリスト、ラルフ・タウナー(Ralph Towner)。1940年生まれ、今年で83歳となる彼がクラシックギター1本で演ずる最新作『At First Light』をリリースした。
アルバムには自身のオリジナルに加え、ジューリー・スタイン(Jule Styne)の(3)「Make Someone Happy」やホーギー・カーマイケル(Hoagy Carmichael)の(10)「Little Old Lady」、アイルランド民謡の(7)「Danny Boy」が含まれている。
明瞭なタッチでときに力強く、ときに思慮深く詩的に爪弾かれるナイロン弦の音はとにかく絶品。老練のギター弾きの味わいを堪能できる作品になっている。
ラルフ・タウナーがECMから最初のアルバム『Diary』をリリースしたのが1973年。これは多重録音も用いて2種類のギター(6弦クラシックギター、12弦アコースティックギター)だけでなく一人でピアノやパーカッションも演奏した作品だが、今聴き返してみても、この頃から音に深く耳を澄ますような美しく個性的なギターの演奏はずっと変わっていない。
プロデュースはもちろん、マンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)。このパートナーシップもまた、半世紀のECMの歴史そのものである。
Ralph Towner 略歴
ラルフ・タウナーはピアノ教師の母、トランペット奏者の父のもと1940年3月1日、アメリカ合衆国ワシントン州シャヘイリスに生まれた。最初にレッスンを受けた楽器はトランペットで、6歳の頃だったという。
1958年にオレゴン大学に入学、芸術を専攻し、その後に作曲へと専攻を変えた。1960年、同大学でのちにバンド「オレゴン(Oregon)」で活動をともにするベース奏者のグレン・ムーア(Glen Moore)と出会っている。
当初のタウナーはピアノの演奏と作曲を探求しクラシックのピアニストとしてキャリアを開始していたが、1960年代後半にとりわけピアニストのビル・エヴァンス(Bill Evans)のトリオによる初期作品群から大きな影響を受け、ジャズに転向した。
ピアニストとしての活動の傍ら、22歳の頃にクラシック・ギターに魅了され、1960年代に数度オーストリア人ギター奏者・音楽家カール・シャイト(Karl Scheit)のもとで学ぶためウィーンに赴くなどピアノそっちのけでギターに没頭。ギタリストとしても優れた才能を発揮し、ECMの創始者マンフレート・アイヒャーとの出会いもあり同レーベルの看板アーティストとして知られるようになっていった。
1970年にグレン・ムーア、マルチリード奏者ポール・マッキャンドレス(Paul McCandless)、タブラ奏者コリン・ウォルコット(Collin Walcott)とともにジャズ/ワールドミュージックのバンド、Oregon を創立。メンバーを入れ替えながら現在まで活動を続けており、クラシックとジャズ、インドや中東を繋ぐ音楽性で高い評価を得た。
彼はアンプによる増幅を避ける傾向にあり、6弦のクラシックギターと12弦のスチール弦ギターのみを使用している。演奏はダイナミクスを重視した繊細なもので、ECMのレーベルカラーにも合致。ECMからは30枚近いリーダー作をリリースしているが、そのほとんどはソロ、あるいはデュオなど小編成のものである。
Ralph Towner – guitar