ペトルチアーニの未発表ライヴ音源『The Montreux Years』
スイス・モントルーで1967年から開催されている世界三大ジャズ・フェスティバルのひとつ「モントルー・ジャズ・フェスティバル」。数々の名演を生み、Montreux Soundsとして過去の5000以上の公演の模様を音と映像で残してきたジャズの歴史においても重要なこのフェスの膨大なコレクションの中から、未発表の貴重な音源を紐解いていくシリーズ『THE MONTREUX YEARS』が2021年に始動している。これまでにニーナ・シモン(Nina Simone)やチック・コリア(Chick Corea)、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)などの貴重な音源がこのシリーズの中からリリースされてきたが、今回紹介するのは2023年4月リリースのシリーズ最新作、フランスが生んだ偉大なピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)の貴重な記録だ。
『Michel Petrucciani: The Montreux Years (Live)』にはミシェル・ペトルチアーニが1990年、1993年、1996年、そして亡くなる前年である1998年に出演した際の演奏が全11曲収録されている。どの演奏も鬼気迫るものがあり、文字通り命を削って演奏した天賦の才能を感じさせる名演だ。彼の代名詞である、しなやかな指のバネを最大限に利用した超高速の同音トレモロなど今聴いても驚くばかり。もちろんそうした力強い超絶技巧だけでなく、(2)「Estate」や(11)「Rachid」などで見せる豊かな叙情性にも心を打たれる。
収録曲はジャズ・スタンダードのほか、ミシェル・ペトルチアーニ自身の作曲も4曲収録。ライヴでよく演奏されていた(1)「35 Seconds of Music and More」や(10)「You Are My Waltz」など、作曲家としてのペトルチアーニも堪能できる内容になっている。
小さな体躯で疾風のように人生を駆け抜けた、奇跡のピアニスト
ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani、1962 – 1999)はフランス出身のジャズピアニスト。先天性骨形成不全症という難病のため全身が骨折した状態で生まれてくるなど生涯にわたって骨が脆く、演奏中に骨折することも多々あったというが、その情熱ほとばしるピアノの演奏は“小さな巨人”と称えられるほど素晴らしく、外国人として初めて米国の名門ブルーノート・レコードと契約するなどジャズ史に大きな足跡を刻んだ。
ギタリストであり、楽器店を営む父親トニー・ペトルチアーニ(Tony Petrucciani)の指導のもと、幼少期から音楽に打ち込んだミシェルはすぐに頭角を表し、13歳で初めてのコンサート、18歳でトリオを組んでの最初のアルバム『Michel Petrucciani』をリリース。
モントルー・ジャズ・フェスティバルには今作に収録された公演以外にも何度が出演。
最初の出演は1982年で、チャールス・ロイド(Charles Lloyd)のカルテットのピアニストとして。その後1986年にはギタリストのジム・ホール(Jim Hall)、サックス奏者のウェイン・ショーター(Wayne Shorter)と共演しており、この時の模様はアルバム『Power of Three』としてリリースされている。
彼がもっとも影響を受けたピアニストはビル・エヴァンス(Bill Evans)で、ミシェル・ペトルチアーニといえば驚くほど力強いタッチや超高速パッセージに耳が行きがちだが、随所でエヴァンスのような叙情的なピアニズムも伺うことができる。
音楽家としてはその人生のほとんどをツアーで過ごし、晩年はパリとニューヨークの二拠点に家を構えたが、その家に長く落ち着くこともなく、ドラッグや多くの女性との恋愛など、その生き方は良くも悪くも“ミュージシャン”だった。晩年は年間に220回以上のコンサートをこなすなど過密スケジュールで、最後は1月の極寒のニューヨークで肺炎に罹りその生涯を終えてしまった。
2011年には彼の生涯を描いたドキュメンタリー映画『情熱のピアニズム』が公開。この作品は現在Amazonプライムビデオなどでも観ることができ、短い人生を全力で駆け抜けた奇跡のピアニストの魅力に触れることができる。
Michel Petrucciani – piano
Steve Gadd – drums (1, 3)
Anthony Jackson – electric bass (1)
Stefano Di Battista – alto saxophone (1)
Flavio Boltro – trumpet (1)
Denis Leloup – trombone (1)
Adam Holzman – synthesizer (2, 6, 11)
Andy McKee – double bass (2, 6, 11)
Victor Jones – drums (2, 6, 11)
Miroslav Vitous – double bass (4, 5, 9)
Eddy Louiss – organ (7)