ウクライナ出身歌手ローラ・マルティ、あまりに美しいラーシュ・ダニエルソンへのトリビュート作品

Laura Marti - Africa

ウクライナを代表する歌手ローラ・マルティ新作『Africa』

ウクライナ出身の歌手ローラ・マルティ(Laura Marti)が、スウェーデンのベーシスト/作曲家ラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)へのトリビュート・アルバム『Africa』をリリースした。

ローラ・マルティとラーシュ・ダニエルソンは2018年にウクライナで開催されたレオポリス・ジャズ・フェストのメインステージで出会い、そこで交響楽団INSO-Lvivとともにラーシュの楽曲の一つ「Granada」を演奏した。
この曲のためにウクライナ語の歌詞を書き、歌ったローラはこのコラボレーションの実現に感動し、ラーシュの他の楽曲にも歌詞をつけることにした。ラーシュ自身も歌詞の響きを気に入り、すべての歌詞をウクライナ語のみで書いてほしいと求め、このアルバムの制作に繋がったという。

アルバムには(1)「Africa」や(3)「Lviv」といったラーシュ・ダニエルソンの過去の名曲のほか、ラーシュがローラのために書き下ろした新曲(5)「For Laura」も収録されている。アレンジはウクライナを代表する女性ピアニストのナターリヤ・レベジェヴァ(Nataliya Lebedeva)によって施され、トランペットにウクライナの若き奏者ヤキフ・ツィウェツィンスキ(Yakiv Tsvietinskyi)を迎えたカルテットがバックを務める。

(1)「Africa」

私自身もラーシュ・ダニエルソンの大ファンだが、インストで慣れ親しんだ楽曲群に歌詞がつき歌われることは新鮮な喜びだ。今作は歌だけでなくアレンジや演奏も素晴らしく、北欧ジャズのファンは必聴ものだろう。個人的には往年の名ピアニストのビル・エヴァンス(Bill Evans)がスウェーデンの歌手モニカ・ゼタールンド(Monica Zetterlund)と共演した名盤『Waltz For Debby』の空気を感じたし、それに匹敵する傑作だと思う。

Laura Marti 略歴

ローラ・マルティ(Лаура Марті)は1987年ウクライナ・ハルキウ(ハリコフ)生まれのジャズ・シンガー/作曲家/作詞家/女優/モデル。
ハリコフ音楽大学でピアノと作曲のクラスを卒業し、キーウ(キエフ)音楽大学グリエ校でジャズ・ヴォーカル・プログラムを卒業。2010年以来、キーウ・スクール・オブ・ジャズ・アンド・エストラーデで教鞭をとっていたが、2022年2月に始まったロシアによる対ウクライナ侵攻開始から1か月後、ローラはドイツに逃れ、ウクライナ支援のため積極的なコンサート活動を行っている。

2011年に妹のクリスティーナ・マルティ(Kristina Marti)との共同名義でジャズや民族音楽のエッセンスが凝縮されたファースト・アルバム『Krunk』をリリース。音楽性は多様で、ジャズ、ポピュラー音楽、ブラジル音楽、民族音楽などさまざまなルーツが垣間見える。

彼女のウクライナ語のWikipediaには、興味深いエピソードがいくつか掲載されている。少し紹介してみよう。

  • 1989年の夏、ローラと母親は休暇でアゼルバイジャンに行った。だが民族間の紛争が激化し、スムガイトの暴動が始まると、ローラの家族の家も襲撃されてしまった。彼女らはなんとか生き残ったが、襲撃後、市外に2週間の間身を隠し、その後ハルキウに定住することになった。
  • 13歳のときにハルキウで開催されたヴォーカル・コンクールで、彼女は自分の年齢の部門でエディット・ピアフの曲「Non, je ne rememberte rien」を歌う予定だった。オーディション後、審査委員長のウマンスキーは「ここには彼女と競争できる相手はいない!」と言い、ローラをコンテストに参加させなかった。その後、このコンテストが汚職に関連していることが判明した。
  • 14歳のとき喉を損傷してしまい、医師は手術を避けるためにローラに歌うことを禁じた。彼女はそれから4年間歌わなかった。

Laura Marti – vocal, lyrics
Nataliya Lebedeva – piano, arrangements
Yakiv Tsvietinskyi – trumpet, flugelhorn
Yuriy Natsvlishvili – double bass
Dima Lytvynenko – drums

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