フジロック出演の奇才、ルイス・コールが残した2022年の傑作『Quality Over Opinion』

この夏、二人の天才が来日する。
それもBlue NoteやBillboardといった格式高いジャズ箱ではなく、フェスへの出演である。
一人は本サイトでも取り上げたことのある「神童」ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)
そしてもう一人が、そのMVも含めすべてにおいて独特なクリエイティビティを見せつけながらも、質の高さからそれすらもスタンダードに昇華されてしまう「奇才」と呼ぶべきマルチアーティスト、ルイス・コール(Louis Cole)だ。
2022年のベストアルバムに入れそびれてしまった最新作『Quality Over Opinion』を今回は来日を記念してご紹介したい。

ルイス・コールの持つ2つの顔

ルイス・コールには2つの顔がある。
コンポーザー/クリエイターとしての顔、そしてドラムをはじめとしたマルチ奏者としての顔だ。
後者にフォーカスを当てるとその非凡さはわかりやすい。
ドラマーとしてブラッド・メルドー(Brad Mehldau)ラリー・ゴールディグス(Larry Goldings)ら現代最高のジャズメン、そして故オースティン・ペラルタ(Austin Peralta)らとセッションを重ねるなど華々しいキャリアを歩んでいることはもちろん、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)フライング・ロータス(Flying Lotus)サンダーキャット(Thundercat)星野源など、国籍・ジャンルを問わずに絶賛される「アーティスト・オブ・アーティスト」なのである。
なお、昨年話題となったドラム/ピアノデュオ、ドミ&JD・ベック(DOMi & JD BECK)もまたルイス・コールの影響を強く感じるアーティストとも言える。

2017年にはデビュー前のDOMiとも共演。

そしてもうひとつの顔であるコンポーザー/クリエイターとしての顔は、2010年のデビュー作『Louis Cole』と並行して活動していた別プロジェクト・ノウワー(Knower)の頃から既に垣間見えていた。
しかし、初期のルイス・コール作品は本人も述懐するようにエレクトロ路線で自らのスタイルを模索していた時代の作品であり、どこか迷いのような雰囲気とその音にリスナーとして身を預けられない頼りなさを感じたのもまた事実だ。しかしその後ジャズ的なアプローチからそのポップセンスに磨きをかけた傑作、2018年『Time』が誕生。そして2022年の本作『Quality Over Opinion』でいよいよその才能はより鮮やかな花を開かせた。

ライブの定番曲「F it Up」のMV。これを見れば、ルイス・コールがどれだけ天才で変態かがわかる。

質の高い音楽だけを集めたベスト盤的内容

表題曲である(1)での自分の音楽制作への向き合い方を熱く語る2分弱の決意表明に続き、(2)「Deep Inside Shuffle」で飛び込んでくるのは、聴くものの耳を一瞬でロックするドラムビート。繊細なファルセットも織り交ぜながら歌い上げるスタイルはどことなくスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)を彷彿とさせるポップ・ソウルナンバーだ。本曲に限らず、(14)「Park Your Car on My Face」など、本作では随所にスティーヴィー・ワンダーを思わせる歌い回しやメロディを感じることができる。
(3)「Not Need Anymore」は軽快なアルペジオがリズムを刻む、タヒチ80(Tahiti 80)ショーン・レノン(Sean Lennon)系グッドミュージック。同じくほぼファルセットで歌われるボーカルが楽曲と合わさり、1:30と短いながらも極上の気持ちよさを提供してくれる。

ジェイコブ・コリアーを意識したようなMV、(3)「Not Need Anymore」

ゴスペルのように静謐な(4)を挟んだ後にバキバキのエレクトロ楽曲(5)「Bitches」とルイス・コールらしさを見せつけたあとは、美しく感動的な楽曲(6)「Message」だ。日本ではあまり知名度がないが、共演するクリス・フィッシュマン(Chris Fishman)ネイト・ウッド(Nate Wood)いずれもルイス・コールに比肩するマルチアーティストである。
ノウワー時代の2014年に書かれたというライブの定番曲(7)「Failing in a Cool Way」は、本作に合わせたクールでミニマルな仕上がり。同様にシンプルなドラムループに有機的なベースやギターが次々と入ってくる(9)「I’m Tight」もまた、ルイス・コールの楽曲の面白さが詰まった一曲だ。

中毒性のあるMVが癖になる(9)「I’m Tight」

全20曲におよぶ本作のすべてを語るにはとても言葉が足りないが、上記のようにメロディアスな楽曲とエレクトロでポップな楽曲が寄せては返す波のように交互に訪れる本作は、まさにジャンルレスなルイス・コールのコアな部分、ジャンルに縛られない「質の高い音楽」を作り続けるという1曲目の決意表明そのものと言える。

なお、ルイス・コールはフジロック、ジェイコブ・コリアーはサマーソニックへと出演する。

どちらの天才のステージに足を運ぶのか。
本稿も参考にしながら、是非最高の夏を迎えていただきたい。

プロフィール

LAを拠点に活動するシンガーソングライター、プロデューサー、ドラマー/マルチ・プレイヤー。楽器演奏や作曲・アレンジの多くを鍵盤/管楽器奏者の父、スティーヴ・コールから教わり、南カリフォルニア大学でジャズを学ぶ。ドラマーとしてブラッド・メルドーやラリー・ゴールディグスら現代最高のジャズメン、そして故オースティン・ペラルタらとセッションを重ねるほどの凄腕。ジェネヴィーヴ・アルターディとのエレクトロ・ポップ・ユニット、ノウワーとしても活動する中、ソロではブライアン・ウィルソン、マイケル・ジャクソン、ジェームス・チャンスなどをバックボーンにもつポップ・ミュージック職人としてサンダーキャットの大ヒット作品『ドランク』にも楽曲を提供。
HMV アーティストプロフィールより)

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