快活なフルートが印象的な Esthesis Quartet 新作『Time Zones』
4人が4人とも異なるタイムゾーンに住んでいるから、アルバム名は『Time Zones』。
米国中のフェスやセッションを通じて出会い、2022年にデビュー作『Esthesis Quartet』をリリースした女性奏者4人によるカルテット、エステシス・カルテット(Esthesis Quartet)の第二作目はそんな分かりやすいタイトルとは裏腹に、非常に洗練された“感覚的(= Esthesis)な”ジャズ・アルバムに仕上がっている。
フルートのエルサ・ニルソン(Elsa Nilsson)はスウェーデン出身だがニューヨークに10年以上在住。ベースのエマ・デイハフ(Emma Dayhuff)はシカゴ在住、ピアノと曲によってはヴォーカルも担当するドーン・クレメント(Dawn Clement)はコロラド州デンバー。ドラマーのティナ・レイモンド(Tina Raymond)は西海岸カリフォルニア。GMT-4〜7の時差を超え、彼女らは新型コロナによる最初のロックダウンの際にZoomを通じて集い、曲やアイディアを交換してデビュー・アルバムの制作を実現した。
新作は7曲のオリジナル曲で構成されており、そのうち3曲はドーン・クレメント、残り2曲ずつをディナ・レイモンドとエルサ・ニルソンが作曲している。アルバムは全体的にエルサ・ニルソンの快活なフルートが素晴らしいアクセントになり楽曲を主導。400平方キロ以上を焼いた2018年の“最悪の山火事”南カリフォルニアのウールジー火災から着想を得たという(2)「Brush Fire」などではソロで電気的なエフェクトも用いるなど、アグレッシヴな演奏が非常に魅力的だ。
ハードバップ(4)「Hollywood」の演奏も素晴らしい。感情を全面に押し出したライヴ感のあるエキサイティングな演奏で、今作のハイライトの1曲と言っても過言ではないだろう。
それぞれが既にもう何枚ものリーダー・アルバムをリリースしているエルサ・ニルソンとドーン・クレメントに、米国でもっとも権威あるハービー・ハンコック・インスティテュート・オブ・ジャズを史上5人目の女性として卒業したエマ・デイハフ、さらにカリフォルニア州立大学ノースリッジ校のジャズ研究部長であり、2020年にダウンビート・マガジンの教育者功績賞を受賞したティナ・レイモンドという米国のジャズ界において今もっとも注目される4人の女性奏者による創造的なアンサンブルは、彼女らが全員“女性である”という事実を無視しても、注目に値する作品だ。
Esthesis Quartet :
Elsa Nilsson – flutes, FX
Dawn Clement – piano, vocals
Emma Dayhuff – bass
Tina Raymond – drums