00年代R&Bの復権。ケンドリック・ラマーも認める新たなDiva、SZAの最新作『SOS』

SZA(シザ)
なんの前情報もなく最初名前を聞いた時に、自分はてっきりラッパーかと思っていた。
自分と同じ年代であれば、ウータン・クランのRZA(レザ)のイメージがどうしても強く、そっちに引っ張られてしまう感覚はわかっていただけると思う。

自分が初めてSZAのサウンドに触れたのは2014年の3rd EP『Z』。
シングル曲「Julia」こそディスコ調のサウンドではあったものの、アンビエントなサウンドにアンニュイな歌い口は新人のそれとは到底思えず、全編を通して中古レコード屋からレアグルーヴ盤を掘り出して聴いている感覚に陥ったのを今でも覚えている。(実際に今でも愛聴盤の一つである)

その後の破竹の勢いは周知の通り。
メジャーデビューアルバム『Ctrl』は2018年の第60回グラミー賞では主要部門〈最優秀新人賞〉を含む計5部門という女性最多ノミネートを達成。受賞には至らなかったものの、前述のEPより歌声もリリックも力強くなった本作は多くの共感を集め、その後も映画『ブラックパンサー』のリードトラックで、レーベルメイトのラッパーKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)とのコラボ曲「All The Stars」では、第61回グラミー賞「レコード・オブ・ザ・イヤー」「ソング・オブ・ザ・イヤー」などへノミネート。そしてDoja Cat(ドージャ・キャット)とのコラボ曲「Kiss Me More」では「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」を受賞と、名実ともに一流アーティストの仲間入りを果たしている。

それから5年。
新人アーティストとしては非常に長いスパンでの発表となった最新作『SOS』は、5年間の思いと苦悩が詰まった全23曲の大長編に仕上がった。

Kendrick Lamarとの「All the Stars」ではケンドリックに負けない存在感を放つ。

前作と似て非なるリアルな「声」

まず気になるのは海辺に佇むSZAの姿が印象的なアートワーク、そして「SOS」というタイトルである。1997年に撮られたダイアナ妃の写真をモチーフにしたというアートワーク、そしてタイトルに関しては本名Solanaの略称として捉えられているが、文字通りの意味と捉えるのであれば、やはりこの5年間の彼女の孤独や苦難が色濃く出ていると考えるのが自然であろう。事実、盟友マック・ミラー(Mac Miller)、そして一番の理解者であった祖母の死をこの間にSZAは体験している。

実際に前作『Ctrl』と地続きのリアルな感情を歌に込めながらも、より強い言葉選びとヒリヒリと感情を絞り出すような歌い口は、本作の特徴と言える。
(3)「Seek and Destroy」では、選択肢のない閉塞感とそれでも進まなければならない現実を歌い、(10)「Gone Girl」もまた、自分自身にも言い聞かせるようなリリックが印象的な楽曲だ。シングル曲である(22)「Good Days」では、誰かのせいにしたいけど自分と向き合っていく覚悟のような揺れ動く心情が苦しいほど表現されている。
そして更に言及したいのが、複数の曲で登場する「space」という言葉。
このワードが表すように、彼女が「居場所」を求め、もがき苦しんでいる姿が作品にも表れ、またそれがより一層の「リアル」を生み出しているのである。

(22)「Good Days」。ミュージックビデオはクセ強ながら、楽曲と歌詞は本作屈指と言ってもいい出来。

00年代を彷彿とさせる正統派R&Bとバラエティに富んだ楽曲群

思えば、近年のビルボードチャートを賑わせてきたR&Bと呼ばれるものは、EDMやトラップの隆盛もあり、良くも悪くも消費される対象のポップソング的な側面と、シンガーもまたポップアイコン的な役割を知らず知らずのうちに課せられてきたとも言える。
ただ、そんなSZAの現代進行形の「声」はそれらと一線を画し、派手さはないが時代によって色褪せることのない確かなサウンドを届けてくれた。
そしてそれはちょうど00年代のR&Bと似たような流れのように思う。
00年代のR&Bはニーヨ(Ne-yo)をはじめ、アッシャー(Usher)、リアーナ(Rihannna)、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)といったポップアイコンとしてのR&Bシンガーが多数誕生し、まさに黄金期と呼ぶにふさわしい時期。
そんな中現れた一人のアーティスト、キーシャ・コール(Keyshia Cole)
力強い歌声と共感性の高い楽曲でチャートを席巻した今のSZAを重ねてしまうのは自分だけだろうか。


実際にSZAの本作では00年代のHipHop/R&Bのような楽曲が随所にみられる。
ウェブスター・ルイス(Webster Lewis)の「Open Up Your Eyes」をサンプリングした (11)「Smoking on my EX Packs」はカニエ・ウェスト(Kanye West)が行ったことで有名な早回しサンプリングが印象的な楽曲であるし、デスティニーズ・チャイルド(Destiny’s Child)やビヨンセ(Beyoncé)、ジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)ら、00年代の楽曲を多数プロデュースしたロドニー・ジャーキンス(Rodney Jerkins)のペンによる(19)「Shirt」など、その感触は確かに00年代のR&Bを感じさせるものであると言える。

キーシャ・コールの代表曲「Love」。
当時のR&Bの流れの中でこんなにヒリヒリした心情をここまでソウルフルに歌い上げ、チャートインしたのは珍しかった。

一方で、R&B以外にも(4)「Low」ではトラップ、(13)「F2F」ではロックとジャンルの垣根を越えて様々な音楽へのアプローチも見られ、この5年間の様々なことを振り切り、モチベーション高く音楽に向き合うSZAの姿も見ることができる。

今のすべてをさらけ出し、歌い切ったと言ってもいい全23曲の最新作『SOS』。
これだけの熱量で作品を出し続けるのは正直簡単ではないと理解はしているが、早めに次の作品を聞いてみたくなる。
心からそう思える作品が生まれたことを素直に喜び、次を待ちたいと思う限りだ。

プロフィール

1990年11月8日生まれ、米・ミズーリ州セントルイス出身のシンガー・ソングライター。
本名はソラナ・イマーニ・ロウ。ニュージャージー州メープルウッドへ移り、2012年に『シー・シザ・ラン』、翌年に『S』と自主制作作品を経て、2014年に〈トップ・ダーグ〉より3枚目のEP『Z』を発表。ビヨンセ、ニッキー・ミナージュ、リアーナらに楽曲を提供した後、2017年に『コントロール』でアルバム・デビュー。翌年のグラミー賞に5部門ノミネート。2023年の2ndアルバム『SOS』は全米10週1位、全米R&B/ヒップホップチャート18週1位の歴史的快挙を達成。
Tower Record Online アーティストプロフィールより)

関連記事

Follow Música Terra