【特集】The Weekndが現代のNe-yoたる7つの理由

2022年年明け早々に2年ぶり5枚目のアルバム『Dawn FM』をリリースした現代R&Bの旗手・ウィークエンド(The Weeknd)。自身の音楽を「夜の音楽」と称すWeekndが放つ最新作は、80年代を彷彿とさせるエレクトロサウンドや日本のシティポップである亜蘭知子(あらんともこ)の「Midnight Pretenders」をサンプリングした「Out of Time」など、夜から夜明け(Dawn)へとweeknd自身が時を進めた意欲作だ。既に多くの批評家から絶賛されている本作が素晴らしいことは、この場で多くを語るまでもないので、ここでは改めてThe Weekndについて焦点を当ててみたい。
考えてみれば、POP/R&Bの垣根を超え、ここまで市民権を得、チャートを賑わしているR&Bに触れるのはどれくらいぶりだろうか。そこに浮かび上がるのは一人のR&Bシンガー、今から約15年前『In My Own Words』で鮮烈なデビューを果たしたニーヨ(Ne-yo)の存在だ。
The Weekndが「陰」だとしたら、Ne-yoは「陽」。嗜好も音楽性も違う2人のR&Bアーティストの意外な共通点から、今注目を集めるThe Weekndを考察していきたい。
また、本稿の最後には記事中で紹介した楽曲のオリジナル・プレイリストをSpotifyにてアップしているので、そちらも是非。

映画にインスパイアされた2人のアーティスト

まずは出自について、面白い共通点がある。
Ne-yoが映画『マトリックス』の主人公Neoからその名を取ったのは有名な話(そのまま使えなかったためNe-yoに)だが、Weekndもまた大の映画好きで映画学校に通うことを望んでいた時期もあったという。自らの青年時代を「映画『KIDS/キッズ』の物語からHIVの要素を除いたもの」と表現するように映画に対する造詣は相当に深い。事実、少女が誘拐されるストーリーが犯罪者目線の1人称視点で描かれる「False Alarm」のMVなど、随所に映画的な素地を感じることが出来る。なお、Weekndも元々は”Weekend”とする予定だったが、Ne-yo同様、権利関係でそのまま使えず”Weeknd”となっている。

2016年作『Starboy』より「False Alarm」

時を超えるグラミー賞アーティスト

そんなWeekndは2枚目のアルバムとなる『Beauty Behind the Madness』で”最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞”を、その中の「Earned It」で”最優秀R&Bパフォーマンス賞”を受賞。3枚目のスタジオアルバム『Starboy』でも”最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞”を受賞し、前作に続き2度目、合計3つのグラミーを獲得し、メジャーアーティストの仲間入りを果たした。
一方、Ne-yoもまた2ndアルバムである『Because of You』で”最優秀コンテンポラリーR&Bアルバム賞を受賞。翌年、3rdアルバム『Year of Gentleman』でも”最優秀R&Bソング賞””最優秀リズム・アンド・ブルース・ヴォーカル・パフォーマンス賞”を受賞し、合計3つのグラミーを獲得している。
今回、批評家の評価も高い最新作『Dawn FM』は来年のグラミーで存在感を放つことが出来るのか。
そしてNe-yo超えをすることが出来るのか。是非こちらも注目していきたい。

2015年作『Beauty Behind the Madness』より「Earned It」。最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞。

新たな時代を創り出したそれぞれのR&B解釈

上記のように賞レースで評価されているだけでなく、この両者は明確にR&Bの方向性を決定づけてきたという点でR&B史における重要人物である。
Ne-yoの登場によって一躍メインストリームに躍り出ることとなったR&B。当時のビルボードチャートと言えば、バックストリートボーイズ(Backstreet Boys)やイン・シンク(‘N Sync)、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)全盛の時代。それらがチャートから一斉に消え、Ne-yo以降と言ってもいい特徴あるポップR&Bは大衆に受け入れられることとなったのだ。
しかしその後、皮肉にもNe-yoが取り入れたEDMによって覇権を失うこととなるR&B。
そしてそれを再びメインストリームに取り戻したのがWeekndであった。
オルタナティブR&Bと言われる彼のR&Bが持つ内省的な世界観や、ロックやクラシック、アンビエントに近い音像は、R&Bを取り巻く一連の流れのカウンター・カルチャーとして受け入れられ、メインストリームを今なお現在進行形で席巻している。
しかし、weekndの音楽性の素晴らしさやスター性に疑いの余地はないものの、突如現れた謎のカナダ人アーティストがここまでメインストリームに食い込むことが出来るというのも、いささか不思議に感じるのもまた事実だ。
そこには同郷の有名アーティストの力強いフックアップがあった。
カナダ人ラッパー、ドレイク(Drake)の存在である。

最初期のミックステープ『House of Balloons』より「what you need」。Weekndが生み出したオルタナティブR&Bの原型が確かに存在している。

ソングライティングからのキャリアのスタート

元々、Abel Tesfaye名義で他のアーティストに曲を書いていたWeeknd。買い手がいない時に仕方なく自分の曲を書いていたWeekndが自分名義で出した「what you need」「Loft Music」「The Morning」がインターネット上でドレイクの耳に触れたことで、風向きが変わる。その後、自身のミックステープを3作発表後、ドレイクの作品『Take Care』の内4曲(「Crew Love」「The Ride」「Practice」「Cameras/Good Ones Go Interlude-Medley」)をプロデュース。メジャーアーティストへの歩みを始めることとなった。
一方、Ne-yoも元々は裏方仕事で有名だった人物。デビュー前にマリオ(Mario)の「Let Me Love You」を提供。後々、Jay-Zに「なんであんな素晴らしい曲を自分で歌わなかったんだ?」と言われたというのは有名な話だ。
裏方仕事からアーティストへ。Ne-yo以降、「ザ・ペン」といった触れ込みで売り出されたショーン・ギャレット(Sean Garrett)など同様のアーティストは数多く存在したが、大きなインパクトを残せていないのが現実である。大成したという意味では、WeekndがNe-yoの後継と言っていいのではないだろうか。

ドレイクの2011年作『Take Care』よりWeekndが参加した「Crew Love」

伝道師としてのディーヴァの存在

R&B界に名を遺す才能あふれるソングライターは共通して女性アーティストの魅力を引き出すのが非常に上手い。古くはベイビーフェイス(Babyface)におけるマライア・キャリー(Mariah Carey)、マドンナ(Madonna)に始まり、Ne-yoはレゲエ界のプリンセス、リアーナ(Rihanna)を一躍R&Bのディーヴァへと押し上げている。そしてWeekndが現代のディーヴァとして指名したのが、他でもないアリアナ・グランデ(Ariana Grande)である。アリアナ名義の「Love Me Harder」にソングライティングと客演で参加したWeekndはアリアナの新たな魅力を引き出すのと同時に、歌姫アリアナに自らの音楽の布教を託したのかもしれない。

アリアナの2014年作『My Everything』より「Love Me Harder」

類まれなるメロディセンスを支える名参謀の存在

裏方仕事でも結果を残している2人だが、そこには参謀と言えるプロデューサーが存在している。
Ne-yoにはノルウェーのスターゲイト(Stargate)がついていた。既にミスティーク(Mis-Teeq)やブルー(Blue)などUKのアーバンポップを量産していたプロデュースチームとNe-yoのメロディセンスが化学反応を起こすことによって、あの「泣ける」「踊れる」キラキラ眩いR&B達が数多くのオーディエンスを魅了していったのだ。
そしてWeekndのバックに存在するのはスウェーデン出身のマックス・マーティン(Max Martin)。その名を知らなくともその楽曲名を聴けば、誰もが納得するはずだ。ブリトニー・スピアーズの「…Baby One More Time」から始まり、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の「Shake It Off」、最近ではBTSとコールドプレイ(Coldplay)のコラボで話題の「My Universe」なども手掛ける”現代のポップマエストロ”の存在によって、Weekndの持つ内省的な世界観はアンダーグランドにとどまることなく、大衆の音楽として支持を得ることとなった。

2020年作『After Hours』より「Blinding Lights」マックス・マーティンプロデュースにより、Billboard Hot 100で全米No.1を獲得。最新作『Dawn FM』にも通じる80s調のナンバー。

ルーツとしてのKING OF POP

ここまで多くの共通点を挙げてきたが、冒頭でも触れたように嗜好や音楽性は大きく異なる。しかし、両者をつなぐ根源的なルーツ、それはやはり”KING OF POP”マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の存在である。
Ne-yoが「Because of You」で楽曲・MVともにマイケルを意識したように、Weekndもまたマイケルを強く意識した楽曲「Can’t Feel My Face」を発表している。
また、ダフト・パンク(Daft Punk)を迎えたWeeknd「Starboy」がどことなくNe-yoの初期代表曲「Sexy Love」にも似た手触りを感じるのは、やはりアプローチは違えど両者はどこかでつながり、無意識のうちに意識しているのかもしれない。

『Beauty Behind The Madness』より「Can’t Feel My Face」。マイケル風のパフォーマンスを披露。

いかがだっただろうか。
類まれなるソングライティングとスター性を武器に00年代のR&Bを牽引したNe-yo。
そして、10年代にキャリアをはじめ、新たなR&B像を創造したThe Weeknd。
20年代のR&Bは今後どのように進化していくのか。
R&Bの歴史は形を変え、これからも連綿と受け継がれていく。

本特集のプレイリスト。weekndの楽曲以外にも本稿で紹介した楽曲もいくつか収録している。

プロフィール

アーティスト:The Weeknd
名前:エイベル・マッコネン・テスファイ (Abel Makkonen Tesfaye)
生年月日:1990年2月16日
出身地:カナダ、トロント

2010年にデモ音源をYouTubeにアップしキャリアをスタート。2011年に無料配信ミックステープ『ハウス・オブ・バルーンズ』を発表すると、音楽メディア「Pitchfolk」で年間ベストアルバムに選出され、注目すべき若手アーティストの1人となった。2012年にメジャーデビュー。1stアルバム『トリロジー』は、全⽶チャート(The Billboard 200)初登場4位を記録、2ndアルバム『キス・ランド』(2013) では初登場2 位を記録した。2014 年にはアリアナ・グランデのシングル「ラヴ・ミー・ハーダー」に参加し一躍有名となった。シングル「Can’t Feel My Face」(2015) は⾃⾝初の全⽶No.1シングル(3週連続) に輝き、続く「ザ・ヒルズ」も6週連続1位をキープし完全にブレイクを果たした。2016 年に3rdアルバム『スターボーイ』を発表。2018 年にはEP『マイ・ディアー・メランコリー、』をサプライズ・リリースし、全⽶1 位を獲得。2020年3月に4thアルバム『アフター・アワーズ』を発売し、4週連続全米1位を記録する大ヒットとなった。
2021年3月13日付の米ビルボード“Hot 100”では、大ヒットシングル「ブラインディング・ライツ」が通算52週TOP10にランクインし、1958年8月4日に始まった同チャートの歴史の中で、1年間トップ10にランクインした初めての曲となり、ビルボードチャート史上初の快挙を成し遂げた。更にアルバム『アフター・アワーズ』から、3曲のシングルが3年連続米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で1位を獲得し、この快挙を成し遂げた史上2人目のアーティストとなる。
2021年のブリット・アワードにてインターナショナル男性ソロアーティス部門を受賞、ビルボード・ミュージック・アワードでは最多16部門にノミネートし、10部門を受賞した。
UNIVERSAL MUSIC JAPAN 公式より抜粋)

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