エルサレムに育ったウリエル・ヘルマンが描き出す、音楽の視点
「私たちは皆、一対の目をもっているが、“見る”ということには無数のレイヤーがあります」イスラエルのピアニスト、ウリエル・ヘルマン(Uriel Herman)は語る。
「視界に入るだけのこともあれば、意識的に見るものを選ぶこともできる。私たちの記憶や夢は、それらに訪れる度に異なる色で描かれるがゆえに、どの瞬間も内側と外側を見ることで特別な意味が与えられるんだ」
『Different Eyes』と題されたウリエル・ヘルマンの新作は、音楽を様々な視点や展望で捉え、受け入れることを促す。音楽自身が積極的にその意味を提示することもあれば、リスナー側がそれぞれの“異なる目”で音楽に意味を与えることもあるだろう。
本作には9つの楽曲(うち4曲がウリエル・ヘルマンによるオリジナル)が収録されており、すべてインストゥルメンタルとなっているが、前述のような観点ではこれらの音楽は非常に雄弁に聴こえる。
古典的ジャズ・スタンダードの(2)「Nature Boy」も、A.C.ジョビンの(4)「Luiza」も、ショパンの(7)「Homage to Chopin Prelude no 4」も、ニルヴァーナの(8)「Polly」も、イスラエルの女性作曲家リヴカ・グイリ(Rivka Gwili, 1910 – 1999)による(9)「Yakinton」も、紛れもなくウリエル・ヘルマンの独自のフィルターを通してアウトプットされた創造的なアレンジだ。原曲を知っていれば、ここで提示された彼の“異なる視点”にはきっと驚かされるだろう。
オリジナルも素晴らしい。個人的に本作のハイライトと思うのが(3)「MJ」。NBA史上最高のスター選手マイケル・ジョーダンに捧げられた曲だというが、おそらく我々日本人が抱くマイケル・ジョーダン像から想起される楽曲とはかけ離れた、驚くべきサウンドだろうと思う(ぜひ、マイケル・ジョーダンを思い浮かべながら聴いてみてほしい!)。
演奏にはピアノのウリエル・ヘルマンのほか、トランペットのイタマール・ボロホフ(Itamar Borochov)、フルートなど木管のウリエル・ウェインバーガー(Uriel Weinberger)、ベースのアヴリ・ボロホフ(Avri Borochov)、ドラムスのハイム・ペスコフ(Haim Peskoff)が参加。楽曲にそれぞれの視点を加え、作品を多色に彩っている。
Uriel Herman プロフィール
ウリエル・ヘルマン(ヘブライ語:אוריאל הרמן)は1987年エルサレム生まれ。ジャズとクラシックの両方で活躍するピアニスト。7歳からクラシックピアノを習い、作曲家のマイケル・ウォルプ (Michael Wolpe)、ピアニストのイレーナ・ヴェレッド(Ilana Vered)といった国際的な教師に師事、2010年にエルサレム音楽舞踊アカデミーを卒業している。
2014年作『Awake』リリース後に紅海ジャズ・フェスティヴァルへの出演や台中国立歌劇院での演奏など国際的に活躍の場を広げ、2019年作『Face to Face』はクラシックやロックからの影響も強く受けた独自色の強いジャズとして高く評価された。
今作『Different Eyes』は英国のレーベル、Ubuntu Music 移籍後の初の作品。
Uriel Herman – piano
Itamar Borochov – trumpet
Uriel Weinberger – woodwind
Avri Borochov – contrabass
Haim Peskoff – drums