SSWマリア・ルイーザ・ジョビンの2ndアルバム『Azul』
ブラジルのシンガーソングライター、マリア・ルイーザ・ジョビン(Maria Luiza Jobim)による2023年新譜『Azul』。そのあまりに重い姓を持つ彼女が受け入れた運命のようなものを感じさせるアルバムだ。
アントニオ・カルロス・ジョビンという偉大な父を持つマリア・ルイーザ。
彼女は多感な十代でエレクトロニック・ミュージックに興味を持ち、特定のアーティストやDJを聴くためにクラブに通い、その後ミックスを学んだ。彼女は自身の音楽を始めたとき、父親とは逆の方向に走りたい、自分の真実が何なのか、あの場所にいた自分を見つけたいという衝動を抱いていた。建築を学び、絵を描き、そしてエレクトロニック・ミュージックを制作した。彼女はどうにかして父親のイメージから切り離されようともがいていたのだ。
2018年に初のソロ・アルバム『Casa Branca』をレコーディングするまで、彼女はリオデジャネイロのインディーズバンド「Baleia」やエレクトロ・デュオ「Opala」で自身の活動に取り組んだ。『Casa Branca』ではエレクトロニックの影響が色濃く反映されていたが、今作では随分オーガニックなサウンドへと変化が見られる。ここには確かに、父が切り拓いた“Bossa Nova”もある。
アドリアーナ・カルカニョット(Adriana Calcanhotto)ををゲストに迎えた「(3)「Papais」では、父に敬意を表して名付けた4歳の娘アントニア(Antonia)と共演している。歌詞は次のように歌われる:
お父さん、時間はあっという間に過ぎてしまいます
前へ後ろへ
行ったり来たりして、結局、私を連れてきます
彼女のインスピレーションの源が“家族”であることを示す素敵な楽曲だ。
アルバムのタイトルである「Azul」=「青」は、幼少期に父親と一緒に遊んだ思い出──それは父がかける楽曲のイメージを色で表す遊びだった──に基づいている。
本作は、マリア・ルイーザという女性が彼女のこれまでの人生で経験したあらゆる出来事についての感傷的で内省的な振り返りのアルバムなのだ。
アルバムの最後には小野リサ(Lisa Ono)と共演した(10)「Nada SouSou」(涙そうそう)が収められている。これは歌詞の意味がわからずともその美しい旋律にマリア・ルイーザが感銘を受けてカヴァーすることを決め録音されたもので、ジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)による美しいチェロの演奏とともにこの美しい作品を締めくくる最高のトラックになっている。
Maria Luiza Jobim 略歴
アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim, 1927 – 1994)とアナ・ジョビン(Ana Jobim)の末娘で1987年生まれのマリア・ルイーザ・ジョビン。彼女は父アントニオ・カルロス・ジョビンの遺作『Antonio Brasilêiro』(1994年)に収録の(6)「Samba de Maria Luiza」と(7)「Forever Green」で父と共演し“デビュー”し、あどけない歌声を披露した(前者の最後では録音中に「もう一回?」と訊いてしまい、父に嗜められる会話も記録されている)。