A.C.ジョビン研究の集大成
あらためて、アントニオ・カルロス・ジョビンは史上最高の作曲家だったと思う。彼がこの世を去って久しいが、遺された作品のあまりに洗練されたコードとメロディー、そして詩情豊かな歌詞──その多くはヴィニシウス・ヂ・モライスの才能によるものだが──による奇跡的な音楽は、今も多くの人々を惹きつけてやまないし、その“新しさ”は決して古臭くなることがない。そう、決して… その証拠に、ジョビンが生まれた国の裏側に位置するここ日本では、洒脱な街の店では今も必ず彼の半世紀以上も前の音楽が空間を彩っているのだ。
今回紹介するのは『Jobim Canção』、“ジョビンの歌”というアルバム。アーティストはジョビンと10年以上も一緒に活動していた歌手パウラ・モレレンバウム(Paula Morelenbaum)と、サンパウロ交響楽団の芸術監督を務めるギタリストのアルトゥール・ネストロフスキ(Arthur Nestrovski)。膨大な数の名曲を遺したジョビンの作品群から、やや個性的な選曲といえる10曲を選び、歌とギターを中心に披露している。
ここにはジョビンという作曲家の魔法がある。アルトゥール・ネストロフスキは一音一音を慈しむように、ガットギターの弦の響きを確かめながら爪弾く。パウラ・モレレンバウムの声はシルクのように美しく、しっとりとしている。二人のギターと歌は魔法の糸を紡ぐように優しい。
ジョビンの楽曲を深掘りし分析する講座も
今回のプロジェクトを通じて、二人は『アントニオ・カルロス・ジョビンの長い芸術』(A longa arte de Antonio Carlos Jobim)という、生演奏での実例を交えながら解説を行う全6編のシリーズもYouTubeで展開。これが非常に濃密な内容で、ジョビンの音楽的なルーツ、それぞれの旋律や和音に込められた意味、歌詞の精神性などをアルトゥールの独自の解釈も交えて語っており、とにかく面白い。ジョビンの研究をするなら必見だろう。