アラブ〜地中海を繋ぐエスニック・ジャズ、Hijaz 最新作
アラブ音楽の旋法のひとつとして知られる「ヒジャズ」をグループ名に冠したベルギーのジャズ・カルテット、Hijaz。ウードとピアノの対話を軸にした音楽性が「間違いなく、ベルギーのワールド・ミュージック・シーンの最大の秘密のひとつ」と称される彼らが、ストリングス・トリオを伴って新作『Hijaz + Strings』をリリースした。
2008年にファーストアルバム『Dunes』をリリースしているHijaz。今作は通算5枚目の作品となるようだ。
イラク・バビロン生まれで英国でギターを学び、イラクでカーヌーンなどの伝統音楽を学んだオサマ・アブルラソル(Osama Abulrasol)がウードを弾き、彼がグループの音楽的特徴の揺るぎない中心となっている。ピアノのニコ・デマン(Niko Deman)はギリシャ系ベルギー人。ストリングス・トリオのアレンジも担当するベーシストのベン・ファース(Ben Faes)と、ドラムス/パーカッションのクライスター・アーツ(Chryster Aerts)はともにベルギー出身。
オサマ・アブルラソルがもたらすアラブ音楽と、ギリシャを中心とする地中海周辺の伝統音楽との違いや共通点を探り、独自の手法でジャズに織り込み表現するような試みが新鮮な結果を生んでいる。
冒頭(1)「Tideland」は思索的な音出しで始まるが、開始2分後に強いリズムを伴ったアンサンブルが躍動する。楽曲は優れた建築のように美しく構築されており、さらに個々の卓越した即興演奏が繰り広げられる。リスナーをアルバムに引き込ませるには最高の導入だ。
(5)「Drunken Greek」も楽しい曲だ。中盤までは現実に目を背け逃げるような、ゆったりとした酩酊の快楽に溺れる酔っ払いを描くが、後半は“彼”の中でなにかが覚醒したのか、急にロマの祝祭のような展開へ。時間は止まることなく流れ、人生は連なり続いていく──。
(7)「Chemsi」はHijazの2012年作『Chemsi』収録曲の再演で、これも非常にスリリングな快演だ。
特筆すべきは、今作で新たに参加したヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのストリングス・トリオが単なるバックの伴奏者ではなく、それぞれソロも取るなど音楽上はグループの対等なメンバーとして迎え入れられているということ。カルテット+αではなく、セプテットとして一体化したジャズ・アンサンブルは見事の一言に尽きる。
Hijaz :
Moufadhel Adhoum – oud
Chryster Aerts – drums, percussion
Niko Deman – piano
Ben Faes – double bass
Strings :
Jeroen Baert – violin
Seraphine Stagier – cello
Karel Coninx – viola