音楽への愛情で結ばれた父娘のデュオ・アルバム
音楽への情熱や、その才能は親から子へと代々受け継がれていくものらしい。
YouTubeの投稿から一躍人気歌手となったフランスのカミーユ・ベルトー(Camille Bertault)の音楽への情熱は、音響技師であり、クラシックを学びジャズを愛好したアマチュアのピアニストである父ポール・ベルトー(Paul Bertault)による幼少期からの指導によって育まれていった。
二人の名義でリリースされた『Songs for My Daughter』は、これまでも自宅や小さなコンサートで定期的に演奏を行ってきた音楽を愛する父娘の素敵な絆の物語だ。
カミーユの父ポール・ベルトーにとって、本作はピアニストとしての“デビュー・アルバム”ということになる。彼は幼少期に母親からピアノを習い始め、モーツァルトやドビュッシーなどのクラシックを教わった。音楽に熱中した彼はその後は独学でクラシックのレパートリーを学んだが、彼の心を捉えたのはジャズ音楽だった。独学でジャズを学んだ彼はフランスで多くのライブを行ったが、結局、プロとしての演奏家の道には進まずにサウンド・エンジニアとなり、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)やジャック・ドゥミ(Jacques Demy)など、多くの映画界の巨匠たちと仕事をした。
彼は娘カミーユがよちよち歩きの頃から、家で流れる音楽のメロディーをすぐに拾うことができる娘の音楽的な才能に気づいていた。彼は娘をピアノに座らせ、最初にモーリス・ラヴェルのピアノ四手連弾の曲「マ・メール・ロワ」(Ma Mère l’Oye)を教え、それから自分が知っている音楽のことをできる限り彼女に伝えた。カミーユは8歳で音楽院に通い、パリ高等音楽学校でピアノを専攻。そして2015年にYouTubeに投稿したジョン・コルトレーンの「Giant Steps」のスキャットで一躍脚光を浴びることになり、以降プロのジャズ・ヴォーカリストとして人気を得ていったことは周知のとおりだ。
今作は父娘にとって大切な曲が数多く収録されている。ガーシュウィンの(1)「Our Love Is Here to Stay」やセロニアス・モンクの(2)「Ruby My Dear」など米国のジャズ・スタンダード。(3)「Syracuse」や、音響技師としての父ポールとも仕事をしたミシェル・ルグラン作の(4)「Chanson de Lola」といったフランスの名曲。カミーユがこれまでに25回以上も訪れ、“第二の故郷”と呼ぶブラジルの音楽からはA.C.ジョビンの(6)「Dindi」、(8)「Luiza」、そしてイヴァン・リンスの(7)「Começar de Novo」。
カミーユの声は相変わらず美しい。が、このリラックスした極上のジャズ・アルバムにおける陰の立役者は、伴奏を務めるポールの愛情深いピアノだということを強調しておきたい。
Camille Bertault – vocal
Paul Bertault – piano