Lawrence Fields『To the Surface』
アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス出身のピアニスト、ローレンス・フィールズ(Lawrence Fields)が自身のピアノトリオを率いて、初リーダー作『To the Surface』をリリースした。アルバムのタイトルには彼がこれまで何年にもわたって蓄積してきたアイデア、サウンド、楽曲を文字通り表面に浮かび上がらせることを表している。
スタンダードの(8)「I Fall in Love Too Easily」を除き、すべてローレンス・フィールズのオリジナル。
トリオのメンバーには彼自身、この2人以外考えられないという人選をした。ベースは東京都出身・シアトル育ちの中村恭士(Yasushi Nakamura)、ドラムスはコーリー・フォンヴィル(Corey Fonville)、ともにニューヨークで全幅の信頼を得ている中堅である。(6)「Yasorey」という曲はこの2人の名前に因んでおり、このトリオが揃って一緒に音を出す瞬間に起きる魔法を表しているという。
高速のパッセージで始まる(1)「Parachute」には、今回のリーダー作が年齢的には決して早くはなく、これまで“脇役”に徹してきた彼がついにフロントに立つことへの決意が表れているようだ。中村恭士とコーリー・フォンヴィルによる心強い後方支援も得て、現代ジャズの最前線にいるピアニスト、ローレンス・フィールズをアピールする。
言いたいことはたくさんあるだろう。それらは全て、彼のピアノと、トリオでのインタープレイに込められている。
オーセンティックな演奏が心地よい(2)「New Season Blues」はジャズという即興音楽の真髄を見せるようだ。非常に速いフォービートで演奏され、ローレンス・フィールズのピアノソロの間はほかの2人はじっくりとその演奏に耳を傾け、後半での中村恭士のソロではコーリー・フォンヴィルがライドシンバルを中心に盛り上げる。このトリオは卓越したインタープレイ*で結びついていることがよく分かる演奏だ。
*インタープレイ…ジャズの即興演奏における相互作用。演者がお互いの演奏に瞬時に刺激・触発され、アドリブを展開していくこと。
(3)「Moving On」は彼と近しかった人物を失ったことからインスピレーションを得た曲。抒情的なバラードの中で、彼(彼女)がくれたこと・ものへの感謝と、喪失の深い悲しみの感情の両方を込めている。
タイトル曲(5)「To the Surface」は音楽表現における創造の過程の苦しみや困難、そして最終的に自己を音楽に投影し解き放ったあとの恍惚感を見事に表現している。
Lawrence Fields プロフィール
ローレンス・フィールズは1985年生まれのピアニスト/作曲家。バークリー音楽大学でジェームス・ウィリアムス賞に輝いた彼は卒業後ニューヨークに移住し、ジャズのシーンで主にサイドマンとして長年活躍してきた。これまでにチーフ・アジュア(Chief Xian aTunde Adjuah, 旧名:クリスチャン・スコット)、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)、テリ・リン・キャリントン(Terri Lyne Carrington)、ジョー・ロヴァーノ(Joe Lovano)らと共演。
アーティストとしては決して目立つタイプではないが、音楽に対する深い愛と思慮深さ、創造的な個性、そして伝統と革新のバランスの三拍子が揃った稀有な音楽家として絶大な信頼を得ている。
Lawrence Fields – piano
Yasushi Nakamura – bass
Corey Fonville – drums