セルビア出身ベース奏者による至高のバルカンジャズ
セルビアのベーシスト/作曲家、ネナド・ヴァシリッチ(Nenad Vasilic)が旧ユーゴスラビアを中心とした14名ものミュージシャンたちと作り上げた『Bass & Strings』は、バラエティ豊かなバルカン・ジャズを楽しめる傑出したアルバムだ。
収録曲は曲ごとに多様な編成で演奏され、ジャズ・フュージョンからバルカン、アラビア風のもの、西洋クラシック音楽に強く影響されたものや、いかにもヨーロッパ・ジャズといった抒情的なものまで非常に多彩。そのどれもが高い技術に裏付けられた素晴らしい演奏で彩られており、隅から隅まで楽しめる作品に仕上がっている。
ネナド・ヴァシリッチはダブルベース、フレットレスのエレクトリックギター、通常のフレッテッドのエレクトリック・ギターと三種の楽器を演奏。ベース楽器の選択が曲の印象にどれだけ深く関わっているかも気づかせてくれる。フレッテッドのベースギターで演奏され、タイトなリズムの(1)「Minority」はジャズ・フュージョンの色合いが強いが、彼が選択する即興のメロディーラインにはやはりバルカン半島出身の個性がしっかりと表れている。
今作で特に光るプレイを聴かせるのは、サモ・ヒューデ(Samo Hude)というピアニストだろう。スロベニア出身のこのほぼ無名の若者のピアノは音選びのセンスが素晴らしく、参加するいくつかの楽曲で強烈な印象を残している。
(5)「Seven Drops」はタイトルが示すように7拍子の地中海ジャズ。サモ・ヒューデがアンサンブルの主導権を握り、推進力のあるアンサンブルを展開する。
アルバムには他にクロアチア出身のチェロ奏者アーシャ・ヴァルチッチ(Asja Valcic)、セルビアのテナーサックス奏者ラストコ・オブラドヴィッチ(Rastko Obradovic)、ギリシャのトランペット奏者パンテリス・ストイコス(Pantelis Stoikos)などが参加している。
(9)「Ljudi, Nije Fer」はネナド・ヴァシリッチによるダブルベース独奏。
ラストでマルコ・ズヴィヴァディノヴィッチ(Marko Zvivadinovic)のアコーディオンとともに祈るように演奏される(10)「Hymn of the Cherubim」(ヘルヴィムの歌)はギリシャ正教会の伝統曲だ。
Nenad Vasilic 略歴
ネナド・ヴァシリッチはセルビア南部の都市ニシュで生まれました。5歳でピアノを始め、12歳で初めてベースギターを手に入れ、15歳でニシュの中等音楽学校に入学。19歳でオーストリアに行き、グラーツにあるジャズ・アカデミーでコントラバスとベースギターを学んだ。
1998年、ヴァシリッチは自身のバンド「ヴァシリッチ・ネナド・バルカン・バンド」を結成し、1999年にオーストリアで最初のアルバム『Jugobasija』をレコーディング。以降、主にはバルカン音楽やクラシックをルーツとしたジャズを展開しつつも、米国のレジェンドであるマーク・マーフィー(Mark Murphy, 1932 – 2015)やシーラ・ジョーダン(Sheila Jordan, 1928 – )とったアーティストとも幅広く共演してきた。
これまでに10枚以上のリーダー作をリリース。
2017年にはセルビア世界音楽協会によって最高の評価である「ヴォジン・マリシャ・ドラシュコチ賞」を授与されるなど、この地域を代表するベース奏者として知られている。
Nenad Vasilic – double bass, fretless bass, electric bass
Samo Hude – piano
Leo Gerstner – drums
Jarrod Cagwin – percussion
Armend Xhaferi – guitar
Marko Zvivadinovic – accordion
Rastko Obradovic – tenor saxophone
Pantelis Stoikos – trumpet
Aleksandra Popovic – violin
Katarina Aleksic – violin
Emily Stewart – violin
Lena Fankhauser Campregher – viola
Marina Popovic – viola
Tamara Rankovic – cello
Asja Valcic – cello