ピアニスト/祈祷師ンドゥドゥーゾ・マカティニ、豊穣の女神に捧げる新作『uNomkhubulwane』

Nduduzo Makhathini - uNomkhubulwane

ンドゥドゥーゾ・マカティニの凄みの真髄を感じさせる新譜

2020年に南アフリカ出身者として初めてブルーノート・レコードと契約を交わしたピアニスト/作曲家、ンドゥドゥーゾ・マカティニ(Nduduzo Makhathini)。以来国際的な知名度を高め、その南アフリカの民族的な響きと豊かな抒情性で注目を浴び続ける彼が早くも同レーベルからの3作目となるアルバム『uNomkhubulwane』をリリースした。

今作はピアノトリオ編成で、ヨハネスブルグ生まれのベース奏者ズワラキ=ドゥマ・ベル・ル・ペル(Zwelakhe-Duma Bell le Pere)と、キューバ出身のドラマーであるフランシスコ・メラ(Francisco Mela)

アルバムのタイトルはズールー族の土着宗教における豊穣の女神ムババ・ムワナ・ワレサ(Mbaba Mwana Waresa)の別名で、虹、農業、収穫、雨、酒を司り、水と土に力を持っているという。Wikipediaによると、この女神には次のような伝承がある:

ムババ・ムワナ・ワレサは虹のアーチでできた雲の中の丸い小屋に住んでいる。雷鳴が聞こえるたびに、人々は彼女が天上の家から恵みの雨を降らせているということを知る。彼女は空の神ウムヴェリンカンギ(Umvelinqangi)の娘である。彼女は姿を動物に変えることができるため、「動物の姿を選ぶ者」を意味するノムクブルワネ(Nomkhubulwane)という異名を持つ。

伝説によると、ムババ・ムワナ・ワレサは天国で夫を見つけられなかったので、地上を探し回り、限りある命の人間の男に恋をして、他の神々に反抗した。彼が本当に自分を愛しているかどうかを確かめるため、彼女は美しい花嫁の姿で現れる一方で、あるときは醜い老婆に扮した。しかし彼女の地上の恋人は欺かれることはなく、すぐに彼女を見抜いた。二人は結婚し、今日に至るまで、彼女の虹に覆われた天上の家に住んでいる。

en.wikipedia.org

(1)「Libations: Omnyama」

ンドゥドゥーゾ・マカティニは女神の物語にインスピレーションを得て、今作を3つの楽章に分けている。

最初に献酒の章(1)〜(3)「Libations」では、差別や抑圧に抵抗する黒人の集団的な記憶を扱っている。
次に、水の精霊の章(4)〜(7)「Water Spirits」では生命力と回復について扱い、“本質の浄化と召喚”を提案する。
そして内なる達成を意味する最終楽章(8)〜(11)「Inner Attainment」では、“自由、希望、恩寵”と、現代に生きる人々に豊かさを取り戻す超越的で継続的な努力に焦点を当てている。

(5)「Water Spirits: Amanxusa Asemkhathini」のライヴ演奏動画。アルバムの演奏も良いが、ライヴでは遥かにスケールの大きな演奏を聴かせる

アルバム全編が深い精神性に包まれ、ンドゥドゥーゾ・マカティニという音楽家が纏う超越的な美しさを感じさせるが、今作の心を激しく揺さぶる感動はズワラキ=ドゥマ・ベル・ル・ペルとフランシスコ・メラによる音楽的な空間拡張に依るところも大きいことは特筆しておきたい。

Nduduzo Makhathini 略歴

ンドゥドゥーゾ・マカティニは南アフリカ共和国ピーターマリッツバーグ郡に1982年に生まれた。かつてズールー族の王ディンガネ王国があった場所として歴史的に重要な場所で育ち、そこでは音楽と儀式が密接に結びついていた。人々の行動意欲や癒しは音楽に深く依存しており、これは彼のルーツを理解する上で重要な要素となっている。

南アフリカに伝わるサンゴマ(Sangoma)と呼ばれる伝統的な祈祷師の肩書きも持ち、彼の価値観は偉大な祈祷師であった祖母の影響を受けており、彼が奏でる音楽にもそうしたスピリチュアルな側面が表れている。

幼い頃から音楽に関心を強く持った彼はダーバン工科大学で音楽を学び始めてすぐにジョン・コルトレーン(John Coltrane, 1926 – 1967)の『A Love Supreme』(至上の愛)と出会い、コルトレーンのバンドでピアノを弾いていたマッコイ・タイナー(McCoy Tyner, 1938 – 2020)に強い影響を受け、その後すぐに南アフリカで最も尊敬されているジャズピアニストの一人である故ベキ・ムセレク(Bheki Mseleku, 1955 – 2008)に師事した。この18歳のときの体験と選択が、その後の彼の人生の方向性を決定づけた。

2015年にナショナル・アーツ・フェスティバルのジャズ部門でスタンダード・バンク・ヤング・アーティスト賞を受賞。さらに2017年のオール・アフリカ・ミュージック・アワードではベスト・ジャズ・アーティスト賞を受賞した。

エレガントな美しさを持った(4)「Water Spirits: Izinkonjana」のソロピアノでのライヴ演奏動画。

2020年に南アフリカ出身のアーティストとして初めて米国の名門レーベルであるBluenote Recordsと契約。同レーベルからこれまでに『Modes of Communication: Letters from the Underworld』(2020年)、『In The Spirit Of Ntu』(2022年)をリリースし話題に。

ンドゥドゥーゾ・マカティニはジャズピアニスト/教育者/スピリチュアルヒーラーとして紹介されることが多いが、前述の背景もあり彼自身にとってはこの3つは区別されず、自分に授けられた役割なのだという。

Nduduzo Makhathini – piano, voice
Zwelakhe-Duma Bell le Pere – double bass
Francisco Mela – drums

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