自然の中から音楽を紡ぎ出す。ジャズ新世代スタヴ・ゴールドベルグ『Symphony of Water』

Stav Goldberg - Symphony of Water

水のように自然に、そこにある音楽

シンガーソングライターとして稀有な才能を知らしめた2020年のデビュー作『Songs』から4年、イスラエル出身のピアニスト/作曲家スタヴ・ゴールドベルグ(Stav Goldberg)の新作『Symphony of Water』は一転してインストゥルメンタルの作品となった。音楽性はジャズが基底となってはいるが、もっとスピリチュアルな何かを秘めた、自由で無限の深みのある音楽だ。

最大7人編成のバンドで、スタヴのピアノのほか、日系のチェロ奏者マユ・シュヴィロ(Mayu Shviro)、ベース奏者アヴリ・ボロホフ(Avri Borochov)とトランペット奏者イタマール・ボロホフ(Itamar Borochov)の兄弟、ギタリストのシャハル・エルナタン(Shachar Elnatan)、ハープ奏者アダ・ラギモフ(Ada Ragimov)、そしてドラマーのアミール・バール・アキヴァ(Amir Bar Akiva)というイスラエルを代表するミュージシャンを揃えている。

アルバムはピアノ、チェロ、ハープ、ベース、ドラムスによる瞑想的な(1)「Amrita」で幕を開ける。
ギターやトランペットが加わる(2)「Sahaf」でよりスケールを拡げ、即興アンサンブルの魔法が渦となりリスナーを音楽の旅に引き込む。今作は「水」がアルバムに通底するテーマだ。水はあらゆるところに流れ、さまざまに形を変えるが混沌としているものではない。スタヴ・ゴールドバーグはヨルダン川のほとりに座り川の流れを見たり、その音を聴くことが好きだったという。一定の美しい法則に従って奏でられるように思えるそれは、まさに“水のシンフォニー”だった。

(8)「Force of the River」のライヴ演奏

音楽の自然な流れに身を任せたような表現はまさに天才的だ。彼は音楽を“作る”のではなく、自然に存在している音楽を人間の耳に聴こえる形で具現化しているように感じる。夏目漱石は『夢十夜』の「第六夜」で運慶の天才的な彫刻の技を“木の中に埋まった仁王を掘り出している”という表現で伝えているが、スタヴ・ゴールドバーグは音楽で同じようなことを行なっているのかもしれない。

Stav Goldberg 略歴

スタヴ・ゴールドベルグは1996年イスラエル・エルサレム生まれ。7歳でクラシックのピアノを始め、13歳でジャズに出会い感化された。エルサレム音楽舞踏アカデミー(Academy High School of Music and Dance)に入学し、ピアニストのオムリ・モール(Omri Mor)にも師事した。高校卒業後、ダニエル・ザミール・プロジェクトやヨゲフ・シェトリット・トリオなど、いくつかの現役バンドのサイドマンとして演奏し世界中のジャズコンサートやフェスティヴァルで演奏。その後2018年にニューヨークのニュースクールに留学しジャズや作曲への学びを深めていった。

最初のアルバム『Songs』(2020年)は多くのリスナーを獲得し、主にイスラエルのメディアで絶賛され、評論家は彼の作品について“音楽の美しさと流れの体現”と評した。

イスラエルとパレスチナの戦争が始まってから、彼は最初にポーランドに、そしてドイツ・ベルリンに生活の拠点を移している。

Stav Goldberg – piano, voice
Mayu Shviro – cello
Itamar Borochov – trumpet
Shachar Elnatan – guitar
Ada Ragimov – harp
Avri Borochov – contrabass
Amir Bar Akiva – drums

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