プリニオ・フェルナンデスが詩情豊かに奏でる映画音楽
ブラジルの若手クラシック・ギタリスト、プリニオ・フェルナンデス(Plínio Fernandes)の新作EP『Cinema』は、その名のとおり映画音楽の名曲たちを演奏した作品だ。一部に多重録音も駆使し、クラシックギター1本で表現力豊かに演奏された映画史に残る数々の音楽は、多くの人々の脳裏に名場面を鮮やかに蘇らせるだろう。
収録曲は下記のとおり。
- Main Theme/Love Theme(映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より)
- Comptine d’un autre été: L’Après-midi(映画『アメリ』より)
- Moon River(映画『ティファニーで朝食を』より)
- 人生のメリーゴーランド(映画『ハウルの動く城』より)
- Cavatina(映画『ディア・ハンター』より)
近年のクラシックスとも言うべきこの名曲たちのギター編曲は、いずれもブラジルの名ギタリストであるセルジオ・アサド(Sérgio Assad)が手がけている。
幕開けはエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone, 1928 – 2020)作曲の(1)「Main Theme/Love Theme」。『ニュー・シネマ・パラダイス』(イタリア, 1988年)を“名作”と評価させた最大の要因のひとつであろうこの曲を、プリニオ・フェルナンデスは豊かな情緒で歌うように爪弾く。
この曲はいつ聴いても、時間の流れの中でいつの間にか忘れ去り、ふとした瞬間に心に溢れ出る郷愁の感覚そのものだと思う。オーケストラで聴くのも良いが、美しくもどこか脆さを感じさせるクラシックギター1本で奏でられるこのハーモニーと旋律が、どういうわけか“人生”そのものを象徴しているようにさえ思えるのだ。
(2)「Comptine d’un autre été: L’Après-midi」(ある午後のかぞえ詩)は映画『アメリ』(フランス, 2001年)より。ヤン・ティルセン(Yann Tiersen, 1970 – )作曲のピアノの原曲をセルジオ・アサドがギターにアレンジした。
ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini, 1924 – 1994)作曲の(3)「Moon River」はオードリー・ヘプバーン主演『ティファニーで朝食を』(アメリカ, 1961年)より。
(4)「Merry-Go-Round of Life」(人生のメリーゴーランド)は久石譲(Joe Hisaishi, 1950 – )作曲の『ハウルの動く城』(日本, 2004年)のテーマ。今作ではもっとも新しい曲だが、映画の公開以来ジャズやクラシックなどでも多く演奏されるようになった曲だ。本作では印象的な対旋律が加えられるなど多重録音も使いとても映像的な美しさを湛えた演奏となっており、小気味の良いワルツのリズムに心を踊らされる。
(5)「Cavatina」は映画『ディア・ハンター』(アメリカ, 1978年)のテーマ曲で、スタンリー・マイヤーズ(Stanley Myers, 1930 – 1998)作曲。原曲は往年の名ギタリスト、ジョン・ウィリアムス(John Williams, 1941 – )が演奏しており、多くのクラシック・ギタリストにとって重要なレパートリーとなっている。
音楽は映像と強く結びついたときに、もっとも人々の心を動かし、記憶に残らせる。
そんなことも思い知らされる作品だった。
Plínio Fernandes – guitar