気鋭トロンボーン奏者マルコム・ジヤネ、南アフリカや黒人文化の真実を語り継ぐ新譜『True Story』

Malcolm Jiyane Tree-O - TRUE STORY

南アフリカのトロンボーン奏者マルコム・ジヤネ、第二作

南アフリカ・ヨハネスブルグのトロンボーン/鍵盤奏者/作曲家マルコム・ジヤネ(Malcolm Jiyane)の2ndアルバム『TRUE STORY』がリリースされた。数日間のセッションによって制作され、絶賛されたデビュー作『UMDALI』(2021年)と比べると素朴で映像的な音楽性はそのままに、より“声”による表現を効果的に取り入れ、注意深く練り上げられた作品といえるだろう。

今作は2020年12月から2021年4月にかけてヨハネスブルグで行われた3回のセッションを経て録音され、2023年にさらにポストプロダクション・セッションを数ヶ月かけて行い、丁寧に磨き上げられたものとのこと。コアバンドは前作と同じく女性ベーシストのアヤンダ・ザレキレ(Ayanda Zalekile)、ドラマーのルンギレ・クネネ(Lungile Kunene)、パーカッションのゴンツェ・マケネ(Gontse Makhene)そしてピアノのンコシナティ・マトゥンジャ(Nkosinathi Mathunjwa)というメンバーで、そこから生み出される生々しいグルーヴからはどことなく“活力”や“希望”といったポジティヴな印象を強く感じさせる。

(2)「MaBrrrrrrrrr」

冒頭で述べたとおり、今作はマルコム・ジヤネ自身によるヴォーカルや、アヤンダ・ザレキレらによるバッキング・ヴォーカルが多くの楽曲でより奥行きのある表現をもたらしている。マルコム・ジヤネはこのアルバムを“比喩的な自伝”と表現しており、もうこの世にはいなくなってしまった人々についての曲を多く書いている。(1)「Memory is the Weapon」はソフィアタウン1の詩人ドン・マテラ2(Don Mattera, 1935 – 2022)を敬意をもって葬送している。ドン・マテラはこの曲名と同じタイトルの著書の中で“多民族の織物”によるある種の美しさを、文化的な中心地であったかつてのソフィアタウンの中に見出していた。その美しさを破壊したアパルトヘイト3政策の悲劇の記憶を留め、語り継ぐ使命に駆られたような楽曲となっている。

アヤンダ・ザレキレによるリコーダーの演奏も印象的な(3)「Dr. Philip Tabane」は1960年代初頭に伝説的バンド、マロンボ(Malombo)を結成したギタリストであるフィリップ・タバネ4(Philip Tabane, 1934 – 2018)への敬意を示している。

反アパルトヘイト運動の最前線で黒人意識運動5を先導したスティーヴ・ビコ(Steve Biko, 1946 – 1977)にインスパイアされた(5)「I Play What I Like」、ジャマイカのラスタファリ運動6を広めたピーター・トッシュ(Peter Tosh, 1944 -1987)に捧げた(8)「Peter’s Torch」など、それぞれの楽曲の背景には深い思慮がある。

ライヴ演奏動画

Malcolm Jiyane – trombone, vocals, keyboards
Ayanda Zalekile – electric bass, recorder (3, 9), backing vocals (3, 9)
Gontse Makhene – percussion, toys
Lungile Kunene – drums
Nkosinathi Mathunjwa – grand piano, keyboards (2), backing vocals (6)
Dion Monti – keyboards (5, 9), synthesizers (9), shakers (2)
Dumama – backing vocals (4)
Nosisi Ngakane – backing vocals (4, 6)
Siya Makuzeni – backing vocals (4)

  1. ソフィアタウン…ヨハネスブルグ郊外の貧しい他民族地区。南アフリカにおける黒人文化の中心地であったが、アパルトヘイトのもとで破壊され、1960年代にトリオンフ(勝利)という名前で白人専用エリアとして再建されたが、2006年に正式に元の名前に戻された。 ↩︎
  2. ドン・マテラ…ソフィアタウンで育った詩人/作家。彼は自伝『記憶は武器』の中でこう書いている:「ソフィアタウンにも美しさがあった。ほとんどのスラム街のように、絵のように美しく親密な場所だった。大邸宅や趣のあるコテージが、錆びた木と鉄の掘っ立て小屋と並んで立ち並び、汚物と重罪を兄弟のように抱擁していた。金持ちと貧乏人、搾取する者と搾取される者、すべてが人種や階級構造を無視した色彩豊かな織物で織り合わされていた。」この“多民族の織物”はアパルトヘイトの分離主義政策に適合しなかったため、ソフィアタウンは破壊され、住人は強制的に立ち退かされた。  ↩︎
  3. アパルトヘイト…アフリカーンス語で「分離、隔離」を意味する言葉で、1948年に制定された南アフリカ共和国における白人と非白人の諸関係を規定する人種隔離政策のこと。ネルソン・マンデラ大統領の就任に伴い、1994年に廃止された。 ↩︎
  4. フィリップ・タバネ…マロンボ(Malombo)というグループを率い国際的な人気を得たギタリスト。マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコックとも共演を果たしている。 ↩︎
  5. 黒人意識運動…当時の反アパルトヘイト運動が直接的な被害を受けている黒人ではなく、白人のリベラル派によって主導されていることに疑問を感じたスティーヴ・ビコら若い学生が中心になって展開した、アパルトヘイト体制下の黒人に意識の変革を迫る運動。自らの「黒人性」という根源に立ち返って、黒人であることの誇りと自覚を通して精神的自立と自助を目指した。 ↩︎
  6. ラスタファリ運動…1930年代にジャマイカの労働者階級と農民を中心にして発生した宗教的思想運動で、アフリカ回帰主義を唱える。 ↩︎
Malcolm Jiyane Tree-O - TRUE STORY
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