江戸時代の大愚良寛ら、世界中の詩作を音楽に昇華した傑作
カナダのシンガーソングライター、ルカ・クプロフスキー(Luka Kuplowsky)による、江戸時代後期の禅僧/詩人・良寛(Ryōkan Taigu, 1758 – 1831)をはじめとした世界各地の詩人たちにインスパイアされた新作『How Can I Possibly Sleep When There is Music』。
ザ・リョウカン・バンド(The Ryōkan Band)と名付けられたバンドによる静謐で哲学を感じさせるバンドサウンドと、ルカ・クプロフスキーと女性歌手フェリシティ・ウィリアムス(Felicity Williams)による男女ヴォーカルが詩的な世界へと連れていってくれる素晴らしい作品だ。
囁くような、詩を朗読するようなヴォーカルと、フルートやギター、控え目だがセンスのよいベースやドラムス、パーカッションから成るバンドは完全に一体だ。ここでは声も楽器の一部であり、詩でさえも楽器であり、そして楽器たちは詩を豊かな表現力で歌う。悠久の時を超えて、洋の東西を超えて、詩人たちが静かに語り合う夕べを垣間見るような感覚に陥る──。
ルカ・クプロフスキーは良寛の他に、ウクライナのボフダン=イホル・アントニチ(Bohdan Ihor Antonych, 1909 – 1937)やオーストリアのライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke, 1875 – 1926)、日本の与謝野晶子(Yosano Akiko, 1878 – 1942)、ペルシャのジャラール・ウッディーン・ルーミー(Jalāl al-Dīn Muhammad Rūmī, 1207 – 1273)、フランスのジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(Jean de la Fontaine, 1621 – 1695)、中国の李白(Li Bai, 701 – 762)に杜甫(Du Fu, 712 – 770)、そしてカナダのW.W.E.ロス(W.W.E Ross, 1894 – 1966)ら、偉大な詩人たちへの謝辞を惜しまない。“温故知新”という諺そのもののように、ルカ・クプロフスキーは彼らが残した詩作という遺産を訪ね、新たなインスピレーションを得て自身の音楽へと昇華した。これがこの24曲入りの精神的なアルバムの正体だ。
詩は普遍的なものだという。ルカは「私が惹かれた詩は、鋭く直接的で、会話調で飾り気のない言葉が使われているものが多く、いずれも力強く誠実で美しい命令的な調子を帯びているんだ」と語る。多少の文化の違いはあれど、優れた詩が人類の共通の感情に訴えかけるものであることは明白だろう。
音楽自体は完全に西洋音楽のスタイルに則しているが、ルカ・クプロフスキーが伝えたいのは芸術は国籍や文化を超える、ということだろう。彼がどのような世界を想い描いてこの作品を生み出したのか、想像を巡らせてみるのも面白い。
Anh Phung – flute
Alex Lukashevsky – electric guitar
Felicity Williams – voice
Josh Cole – electric bass
Evan Cartwright – percussion
Philippe Melanson – percussion
Luka Kuplowsky – voice, guitar, piano