北欧と南米の最高の器楽奏者の奇跡の邂逅。ヤン・ラングレン&ヤマンドゥ・コスタ『Inner Spirits』

Jan Lundgren & Yamandu Costa - Inner Spirits

ピアノとギターの素晴らしいデュオ作品

意外な音楽家同士の共演や、そこから生じる化学反応はジャズという種類の音楽の醍醐味でもある。グループのメンバーがある程度固定されていることが多く、長い時間をかけてそのアイデンティティを形成するクラシックやロックといったジャンルでは、こうした流動的な楽しみ方はあまりできない。それに対し、世界共通の音楽的言語で繋がりあっていることの多いジャズ・ミュージシャンは、異なる背景や演奏スタイルを持つ音楽家同士が出会い、互いに刺激を受け合うことで即興主体のセッションから思わぬ創造的な芸術が生み出す。今では世界規模でそうしたセッションが活発に行われており、異なる文化の邂逅が音楽の多様性を促進し続けているのだ。

今回紹介するデュオも、そんな意外な組み合わせだった。
アルバム『Inner Spirits』は、スウェーデンのピアニスト/作曲家のヤン・ラングレン(Jan Lundgren)と、ブラジルの7弦ギター奏者ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)の共作だ。

2人は2019年にスウェーデンの都市マルメで初めて出会い、夕食を共にし、すぐに親近感を覚えたという。互いを知るにつれ、その音楽への心からの情熱を知り、最終的にヤン・ラングレンから「一緒に何かやりませんか?」と尋ねたという。
2人の最初のコンサートは2023年初頭にスウェーデンのストックホルムで開催され、大きな反響を得た。それから2人はさらにコンサートを計画し、2024年2月にわずか1日半のレコーディングでこの作品を完成させた。

互いにオリジナル曲を持ち寄り、一部にはカヴァー曲を取り上げた今作は、北欧ジャズとブラジル音楽という全くベクトルの異なる音楽性が意外なほどに調和し、言葉にできないほど素敵な空間を作り上げている。

ヤン・ラングレン作曲(3)「Fresu」のライヴ演奏動画。曲名は、おそらくイタリアを代表するトランペッター、パオロ・フレス(Paolo Fresu)へと捧げられたものだろう。

卓越した演奏技術で魅せる、圧倒的な音楽体験

その音楽性は群を抜いている。
ピアノとギターという二つの楽器は絶えず有機的にその役割を入れ替え、ジャズのデュオとして驚くべきクオリティの即興音楽を紡ぎ出す。2人の対話のような音楽は“北欧ジャズ”あるいは“ブラジル音楽”を期待するとその折衷的なものなので肩透かしを喰らうかもしれないが、ヤン・ラングレンとヤマンドゥ・コスタはこの作品がそれらの融合からできた全く新しいものであると力強く訴えかけているようだ。特にヤマンドゥ・コスタはその圧倒的なテクニックから技巧重視のように思われがちなアーティストのように思うが、今作では彼のテクニックはあくまでもさりげなく、自然な音として表出している。特に(5)「Nina」で聴かせる限りなく優しく美しい演奏は今作のひとつのハイライトだろう。

アルバムの収録曲のタイトルには2人それぞれが感謝を捧げる人の名前が多く採用されている。
偉大な先人たちへのリスペクト、そして同時代に生き、共に音楽を奏でる仲間たちへの賛辞。
このアルバムは、音楽がどれだけ美しく尊いものかを思い出させてくれる。

ルイス・ボンファ(Luiz Bonfá)の名曲(14)「Manhã de Carnaval」と、ヤマンドゥ・コスタ作曲の(8)「A Legrand」をメドレーで。
(10)「Choro Para Paquito」はキューバ系アメリカ人サックス奏者、パキート・デリベラ(Paquito D’rivera)へと捧げられている。

Jan Lundgren – piano
Yamandu Costa – guitar

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