個人で楽しめるオーダーメイドの音楽。「子守唄」の作曲を依頼してみた【後半】

大人2人で長く暮らしていた世帯に、子供が1人増えることになった。やがて成長して巣立つ子供にとって、何か一緒に楽しめるもの、小さな支えとなるものを…と考えた時に、ふと思い当たったのが「子守唄」だった。

この記事では、【前半の記事】で作曲家に子守唄の作曲を委嘱してみた筆者が、曲の完成までの流れと感想を紹介する。

【依頼の流れ、費用、期間などをまとめた記事前半はこちら】

仮音源の受け取り

発注を確定させ、事前打ち合わせが完了してから約3週間後。

作曲を依頼した片山柊氏からメールで連絡をいただいた。

子守唄の件につきまして、****(※ファイル共有サービス)よりメロディーと伴奏のご確認をお願いできますでしょうか。

前奏・間奏・後奏につきましては関連性を保ちたいため、メロディーが確定できましたら制作させていただきたく存じます。

送っていただいたファイル共有サービスのリンクより、音声ファイルをダウンロード。

自分たちの送った歌詞がどのような音楽に仕上がっていくのかドキドキしながら、仮歌(作曲の片山氏吹き込み)と伴奏の入った録音音源を確認した。

仮歌を受け取っての印象

仮歌と伴奏の確認後、作曲の片山柊氏にさっそく感想をお伝えした。

先日は素敵なメロディーと伴奏をありがとうございました。二人で確認させていただきました! ゆったりとした感じが心地よく、夜空に包まれているような気持ちになります。歌う上で音域も問題なさそうです。

この時いただいた音源には、心地よさだけではなく意外性もあった。特に新鮮だったのは、次の2点。

浮遊感と伸び縮み

音源を聴いていると、曲そのものが伸び縮みするような不思議な感覚に包まれる。

拍や小節の境目は、姿を現したかと思えば時に揺らぎ、時にそっと姿を消す。

実はこちらからお送りした歌詞にも「ゆらゆら」など揺らぎを感じさせる言葉が入っていたのだが、メロディーや伴奏が織りなすのはそうした言葉の枠も超えた、さらに大きな浮遊感。

後日、作曲の片山柊氏に話を伺った際には「私なりのピアニズムというか、作曲上のこだわりというものは割と打ち出して書いた」と教えていただいた。

限られた音域の中でも、のびのびとした跳躍があった!

もう一つ意外な驚きを感じたのが、メロディー後半の6度の跳躍。

作曲の依頼時、片山氏にはメロディー全体を一定の音域に収めてもらうようお願いしていた

これは、依頼した自分たち2人ともが地声で無理なく出せる音の範囲として、チューナーアプリで測定してみた音域だった(自分自身の感覚としては、「意外に狭いな…」という印象)。

日常生活の中で歌うことを意識してのリクエストだったものの、「音域が狭くて動きが制限されてしまうかも…」という懸念もあった。

そのため、起伏の小さな印象の曲になるのだろうかと思い込んでいたのだが、いただいた音源にはのびのびとした跳躍が含まれており、新鮮な驚きがあった。

調整事項

仮歌の受け取り後、前奏・間奏・後奏を含めた完成作を作っていただくにあたり、歌詞の微調整をお願いした。

(1)子供の名前を「◎◎◎◎」に決めました。
仮案の「〇〇〇〇」と近いですが、この変更に合わせてメロディーの調整が必要でしたら適宜お願いいたします。

(2)仮歌では最後の部分を「●●●●● ●●●」と吹き込んでいただいたかと思いますが、 実際の歌詞は「●●●●● ▲▲▲」でお願いいたします。こちらも、メロディーや伴奏に微調整が必要でしたら適宜お願いいたします。

この2点を作曲の片山氏にご了承いただき、完成までの製作作業を進めていただいた。

楽譜データと演奏音源の確認

仮歌の確認から約3週間後、完成した楽譜データを納品前に確認のため拝見できることに。

お送りいただいた譜面がこちら(一部ぼかしをかけています)。

譜面イメージ(ぼかし有り)

子守唄 for Vocal and Piano (Score Sample Image) © 2022 by Syu Katayama is licensed under CC BY-NC-ND 4.0

聞かせていただいていた仮歌から感じていた、不思議な揺らぎや浮遊感の正体もここで垣間見ることができた。

譜面上は3拍子の曲なのだが、小節どうしの間を歌詞が大きくまたいだり、伴奏の八分音符の流れ方が変化したり。

(でも、譜面はかなりシンプルに見えるのだ…!)

楽譜についての確認項目

拝見した楽譜についての確認項目は以下の通り。

確認事項1:楽譜に入れる名前

献呈先として、楽譜に我々親子の名前を載せていただいた。その名前の表記についての確認。

確認事項2:楽譜に添える日付

子供の誕生日をページ末尾に入れることを提案していただいた。

音源

魅力的だが奥深いこの子守唄。

自分たちで歌えるだろうか…と少々不安な部分もあったが、オプションでの演奏&歌唱音源も聞かせていただき、音楽がだんだんと体へと染み込んできた。

ピアニストでもある作曲の片山氏ご本人のピアノ伴奏と、プロの歌手の方の歌声。自分たちの声で歌うのとはまた別の、作品としてのもう一つの形を味わえる贅沢な音源でもあった。

ついに納品! 子供本人の反応は…?

こうして、依頼していた子守唄がついに完成。当初の打ち合わせでお伝えいただいていた納期までに、郵送とファイル共有サービスにて全納品物をお送りいただいた。

納品物

楽譜

  • PDF(ファイル共有サービスにて)
  • 紙(簡易製本、郵送にて)

演奏音源(オプション)

ファイル共有サービスにて

  • ピアノ伴奏のみ
  • 歌+ピアノ伴奏
  • メロディー歌唱(歌詞なし)

楽譜受領・開封

簡易製本済みの楽譜が自宅に到着したのは、子供が無事に誕生し、試行錯誤だった新生活もだんだんと軌道に乗り始めた頃。

親子3人が揃っているタイミングで封を開けると、子供が目を見開いてそちらに顔を向ける。

製本の扉に載せていただいた歌詞や、譜面の末尾に入れていただいた誕生日などのお気遣いが嬉しい。楽譜に添えていただいたメッセージと譜面を、子供本人も興味深そうに見つめていた。

暮らしに溶け込んでいく子守唄

こうして私たちの元へと届いた子守唄。

当初は寝かしつけの時やぐずりを落ち着けようとする際に歌っていたが、子供本人が静かな入眠を好むタイプのようだったため、起きている間のふれあいの歌としての意味合いが大きくなった。

近頃は、湯上がりの子供の体を拭いて寝床に移動させる時など、子供にとってのオン(目覚めている時間)からオフ(眠りの時間)への移行の際に口ずさんで聞かせている。

変化を重ねていく暮らしの中で、この子守唄の歌い方・聞き方もまた発展していくことだろう。

なお、作曲依頼を受けてくださった片山柊氏は、東京都内を拠点に作曲とピアノ教育を行うほか、今回のように個人での作曲委嘱も受けているとのこと(※本記事執筆時点)。ダンスとの融合音楽朗読劇即興パフォーマンスなど、演奏者としての活動もますます発展している。

作品を通じ、私たちに今後の日々の支えの一つを提供してくれた片山氏に感謝している。


片山 柊 | カタヤマシュウ X (Twitter): @syu_katayama

Website: https://syukatayama3.wixsite.com/syukatayama

Apple Music: https://music.apple.com/jp/artist/%E7%89%87%E5%B1%B1%E6%9F%8A/1443694888

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