マルタ・ゴメス新作『Seré Guitarra』
コロンビアを代表する女性シンガーソングライター、マルタ・ゴメス(Marta Gómez)による新作『Seré Guitarra』がリリースされた。子供時代のインスピレーションをもとにしたという純真な感性に満ちた作品となっており、オリジナル曲には世界を変えることはできないかもしれないが、少なくともそれを試みようという詩的なメッセージが散りばめられている。
音楽的にはこれまでの彼女の作品と同様に南米の伝統的なスタイルの歌と、ジャズなどの要素をミックスしたもので、美しいメロディーも健在。ナイロン弦ギターの柔らかだが強い意志を持った響きのイントロで始まる(1)「Pide Un Deseo」は2分ほどの小品だが、最後にはストリングスやコーラスも入りマルタ・ゴメスという稀有な音楽家の才能が凝縮された1曲となっている。
(3)「Tiempo De Calypso」にはカリブ海のコロンビア領プロビデンシア島出身のSSWエルキン・ロビンソン(Elkin Robinson)をフィーチュア。より公平な世界への希望を込めたポジティヴな祈りだ。
(8)「ABC」はアラン・サットン率いるアルゼンチンのバンド、Alan Sutton y las criaturitas de la ansiedad をフィーチュア。アルバムには他にキューバ出身のリウバ・マリア・エビア(Liuba María Hevia)やコロンビアの獣医師兼SSWのホルヘ・ベロサ(Jorge Velosa)などがゲストとして参加している。
アルバムのタイトルは“私はギターになる”の意味。マリア・ホセ・メンドーサ(María José Mendoza)をゲストに迎えたタイトル曲(13)「Seré Guitarra」はベト・オヘダ(Beto Ojeda)が弾くあたたかなギターを伴奏に二人がデュエットしており、ジャケットに描かれたイラストが象徴するように音楽と楽器がもつ特別な意味を思い起こさせる。
Marta Gómez 略歴
マルタ・ゴメスはコロンビア第三の都市サンティアゴ・デ・カリに1978年に生まれた。4歳から11年間、地元の合唱団で歌い音楽や文化的な基礎を身につけ、15歳で首都ボゴタに移り住み、1994年からハベリアナ大学で音楽を専門に学んだ。彼女が最初に影響を受けた音楽家としてはビオレータ・パラ(Violeta Parra)、メルセデス・ソーサ(Mercedes Sosa)、チャベラ・バルガス(Chavela Vargas)、チャブカ・グランダ(Chabuca Granda)といった南米スペイン語圏の歌手やSSWが挙げられている。
その後奨学金を得て米国のバークリー音楽大学に留学し、卒業の前年の2001年に最初のアルバム『Marta Gómez』をリリースし、収録曲「Confesión」でアレックス・ウラノウスキー作曲賞を受賞。
以降もラテングラミー賞やビルボードのラテン・ジャズ部門など、さまざまな賞にノミネートされるなど南米を代表する音楽家のひとりとなっている。
彼女の音楽はコロンビアの伝統的な歌にジャズなどのエッセンスを加えた独自のもので、歌詞は日常生活を歌ったものから、戦争などの社会問題に深い懸念を示したものなど幅広く、文学的な表現も支持されている。2014年、マルタ・ゴメスはイスラエルとパレスチナ間の紛争をテーマに「Para la guerra nada」(戦争は何も役にたたない)という曲を作曲し、この曲は2017年にボゴタで開催されたノーベル平和賞世界サミットで彼女によって歌われた。