Ryan Keberle & Catharsis 新作『Music is Connection』
アメリカ合衆国のトロンボーン奏者/作曲家ライアン・ケバリー（Ryan Keberle）が率いるバンド、カタルシス（Catharsis）の新譜『Music is Connection』がリリースされた。メンバーにはチリ出身のギターのカミラ・メサ（Camila Meza）、ペルー出身のホルへ・ローダー（Jorge Roeder）、そして米国出身のドラマー、エリック・ドゥーブ（Eric Doob）を擁し、南米音楽からの影響も濃いコンテンポラリー・ジャズ作品に仕上がっている。
ライアン・ケバリーは近年もソロ・アーティストとして“街角クラブ”トリビュートの『Sonhos da Esquina』（2022年）やピアノとチェロとの意欲的なトリオ作『Reverso – Harmonic Alchemy』など精力的に活動をしているが、彼のキャリアにおけるメインのプロジェクトである“カタルシス”名義では前作『The Hope I Hold』以来、5年ぶり。アルバムのタイトルは“カタルシス”のデビュー作『Music Is Emotion』（2013年）へのセルフ・オマージュで、ミュージシャン同士の絆、聴衆との繋がりなどへの感謝を示している。事実、前作からのこの5年の間にパンデミックがあり、その間にNYを離れたバンドメンバーもいたというが、今作では前作のメンバーが再集結する形となった（テナーサックス奏者のスコット・ロビンソン（Scott Robinson）は(9)「Arbor Vitae」のみに参加）。
サウンドは前作の延長線上で、各人が最高のプレイで複雑な化学反応を起こしていく様はエキサイティング。時にスキャットで、時にスペイン語やポルトガル語で歌いつつ圧巻のギターを聴かせる紅一点カミラ・メサの存在感はやはり特筆すべきもので、バンドは彼女を中心に音楽を紡いでいる。ライアン・ケバリーはいつもの通り派手さはないが燻銀のトロンボーン、そして効果的なシンセやピアノで完璧な屋台骨となっている。
収録曲は多くがバンドメンバーのオリジナルだが、ライアンが傾倒する南米音楽のカヴァーも。
(3)「Lo Unico Que Tengo」（私が持っているただひとつのもの）はチリのレジェンド、ビクトル・ハラ（Victor Jara, 1932 – 1973）の楽曲（ビクトル・ハラの楽曲を取り上げる音楽家は、やはり信用が置ける）。そして(6)「Vera Cruz」は“ブラジルの声”ミルトン・ナシメント（Milton Nascimento, 1942 – ）の名曲だ。
Ryan Keberle 略歴
ライアン・ケバリーは1980年にインディアナ州ブルーミントンでジャズ・トランペット教師の父とピアノ教師の母の間に生まれた。最初に手にした楽器はヴァイオリンで、スズキ・メソードで習い、このときに聴音のスキルを培っている。5歳の頃からピアノを始め、その後10歳の頃に父親からトロンボーンを与えられ、ビッグバンドでの演奏を開始した。学生時代からプロの演奏家として活動し、ニューヨークでの最初の4年間は主にピアニストとして生計を立てていた。
2003年に自身の名を冠したアルバムでデビュー、2010年には『Heavy Dreaming』をリリースした独創的なダブル・カルテット（Double Quartet）で注目を集めた。ピアノレスのカルテットであるカタルシス（Catharsis）は2013年にアルバム『Music Is Emotion』でデビューしている。
トロンボーン奏者としてマリア・シュナイダー・オーケストラでの15年以上の在籍を始め、多数のビッグバンドでソリストとして活躍。グラミー賞を受賞した7枚の作品に参加するなどNYのジャズシーンでは欠かせない存在となり、米国のジャズ専門誌『JazzTimes』の投票で2020年の最優秀トロンボーン奏者に選出された。
使用トロンボーンはキューンル・アンド・ホイヤー（Kuhnl & Hoyer）製。
Ryan Keberle – trombone, Wurlitzer, Roland Juno synth, piano, vocals
Camila Meza – vocals, guitar, guitar FX
Jorge Roeder – acoustic bass
Eric Doob – drums, percussion
Scott Robinson – tenor saxophone (9)