テルアビブの気鋭ピアニスト、Stav 待望の新作
初リーダー作『Plastic Cocoon』(2020年)から4年、イスラエルの才能溢れるジャズ・ピアニスト/作曲家スタヴ・アハイ(Stav Achai)の待望の新作『Tears in Colours』がリリースされた。今作でも彼女の音楽はジャズの領域に留まらないポップで新鮮な感覚に満ち、さらにサウンドもアレンジも前作からさらなる進化を見せ、その創造的なオリジナリティをより確信的にした。世界が彼女を“発見”するのも時間の問題だろう。
スタヴはこの数年間で大切な人の喪失を経験し、どれだけ時が流れその痛みに慣れたとしても失ったものは二度と戻らないという事実に触れ、そしてその過程で何度も音楽に救われたという。アルバムのタイトルには流した涙にも様々な色合いがあることに気づいた時にふと浮かんだという「色彩の涙」という言葉が冠せられている。アルバムは2022年に録音されたが、2023年10月7日にイスラエル南部で起きた出来事によってリリースに向けたあらゆる作業は中断を余儀なくされた。長く悲しい考え事の期間を経て、彼女の個人的な嘆きは世界の人々に普遍的な嘆きだと気づいたことが、作業再開の重要なきっかけとなった。
こうしたストーリーがスタヴ自身のFacebookで語られているが、収録された楽曲はテキストのように陰鬱なものではない。ピアノのソリッドな音色やはっきりとしたリズムによって、むしろ真逆な印象さえ受けるほど希望があり、エネルギーに満ちている曲が多い。これは作曲やアレンジ、演奏を行なった当時と今の状況が大きく変化しているせいもあるかも知れないが、このストーリーとメッセージをこの時代に発信することには大きな意味があるのだろう。楽曲にはさまざまなポスト・プロダクションが施されており、それがこの作品を単なる“ジャズ・アルバム”ではないことを示している。例えば(1)「Coco & Rico」ではその一部分でピアノに常識破りなモジュレーションが掛けられている。
(4)「Road Song」は、アルゼンチンやブラジルの近年のジャズの潮流との共通点もあるように思う。(6)「The Ballad For The Hummingbird」など、ティグラン・ハマシアンにも通ずるアグレッシヴなアレンジが刺激的。
カルテットのメンバーは前作にも参加していた面子で、ドラムスのシャハール・ハジザ(Shahar Haziza)、ギターのロイ・アヴィヴィ(Roi Avivi)、そしてベースのダニエル・ハーレフ(Daniel Harlev)。
Stav Achai – piano, voice
Shahar Haziza – drums
Roi Avivi – electric guitar
Daniel Harlev – contrabass, electric bass