エレン・アンドレア・ワン、「Closeness」トリオの待望の新譜
ノルウェーの女性ベーシスト/歌手/作曲家エレン・アンドレア・ワン(Ellen Andrea Wang)が、2019年以来活動の軸としているロンドンのギタリストのロブ・ラフト(Rob Luft)とスウェーデンのドラムス奏者ヨン・フェルト(Jon Fält)とのトリオによる第二作目『Closeness II』をリリースした。
アルバムにはインストからヴォーカル入りの曲まで収録。ほとんどがエレン・アンドレア・ワンの作曲で、彼女の優れたベース演奏、歌唱からロブ・ラフトの創造性に満ち特に空間系のエフェクターを多用した素晴らしいギター、ドラムスだけでなく多様なパーカッションを取り入れたヨン・フェルトのリズムがアンサンブルで調和し、心地良いリスニング体験を約束してくれる。従来の所謂“北欧ジャズらしさ”は薄いが、北欧のインスピレーションがロンドンの先鋭的なシーンとも呼応する類稀なサウンドと言えるだろう。
(3)「I Like London In The Rain」はイギリスのシンガーソングライター、ブロッサム・ディアリー(Blossom Dearie, 1924 – 2009)のカヴァー。ここでは原曲の子どもっぽい無邪気さとは異なる、落ち着いた雰囲気のアレンジで聴かせてくれる。エレン・アンドレア・ワンの歌は平坦で特徴には欠けるものの、その声質の美しさや音程の安定感(それは彼女のベースにも言える)がとても素晴らしい。
(5)「Du Høie Fryd」はノルウェーのソンドレランド(Søndre Land)の伝承歌にインスパイアされ書かれたもので、どこか長閑なメロディーが良い。
今作においてロブ・ラフトのギターはどの曲でも際立っており、(7)「Villa Bjørk」などは特に米国のパイオニア的名手ビル・フリゼール(Bill Frisell, 1951 – )をも彷彿させる。
Ellen Andrea Wang 略歴
エレン・アンドレア・ワンは1986年ノルウェー・イェービク生まれ。シンガーソングライターのマルテ・ワン(Marthe Wang)は従姉妹にあたる。
彼女は幼い頃からヴァイオリンを弾き始めたが、16歳の時にアップライトベースに転向し、ノルウェー音楽アカデミーでECMからアルバムもリリースしているベーシストのビョルン・イェレミール(Bjørn Kjellemyr)の指導を受けた。その後は主に自身のバンドを率いて活動し、2014年にアルバム『Diving』でデビュー。2015年には歴史あるコングスベルグ・ジャズ・フェスティバルにおいて、指導的立場にあるミュージシャンに贈られる「優秀ミュージシャン賞」を受賞している。
イギリスの気鋭ギタリストであるロブ・ラフトと、スウェーデンの著名な打楽器奏者ヨン・フェルトとのバンドはアメリカのダブルベース奏者チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden, 1937 – 2014)の音楽へのトリビュートとしてスタートし、ヘイデンの『Closeness』(1976年)からバンド名を拝借。次第にエレンのオリジナル曲の比重が増え、2020年にアルバム『Closeness』をリリースした。
彼女はこれまでにスティング(Sting)、マヌ・カチェ(Manu Katché)、マリリン・マズール(Marilyn Mazur)、ブッゲ・ヴェッセルトフト(Bugge Wesseltoft)といったミュージシャンとも共演を経験している。
Ellen Andrea Wang – double bass, vocal
Rob Luft – guitars, background vocal
Jon Fält – drums, percussion, background vocal