ブラジルのピアニスト/作曲家、サロマォン・ソアレス新作
ブラジルを代表するピアニスト/作曲家のサロマォン・ソアレス(Salomão Soares)の2024年新譜『Espirais』はシンプルに一般的なピアノトリオ編成のジャズ・アルバムだが、随所に“ブラジルらしさ”が散りばめており、特にブラジル音楽ファンには楽しめるジャズとなっている。
楽曲はすべてサロマォン・ソアレスの作曲によるもので、彼にインスピレーションを与えてきた芸術家に深いリスペクトを捧げた曲も散見される。例えば(2)「Luzes do Carmo」(カルモの光)はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti, 1947 – )へのトリビュートで、後半にはジスモンチの名曲「Palhaço」のメロディーの引用も。同じように(3)「Teleférico」にはミルトン・ナシメント(Milton Nascimento, 1942 – )の曲からの引用も見られるなど、彼らしい“小ネタ”が面白い。
スペインの画家サルバドール・ダリ(Salvador Dalí, 1904 – 1989)に捧げられた(7)「Dalí」では、ヴォーカルでサンパウロ出身のステファニー・ボルガニ(Stephanie Borgani)が参加。彼女の声はダリが描いた世界のように複雑にもつれ歪むような世界観の演奏の中で、ひとつの精神的な拠り所として機能している。
トリオのメンバーはドラムスのパウリーニョ・ヴィセンチ(Paulinho Vicente)、そしてベースのフェリピ・ブリゾーラ(Felipe Brisola)。
サロマォン・ソアレスのアドリブはいつものように終始天才的なひらめきに富み、驚きの連続だが、そのひらめきを下支えし、盛り上げているのは間違いなくこの二人の才能によるものだ。
Salomão Soares 略歴
サロマォン・ソアレスはブラジル北東部のパライーバ州の小さな街クルス・ド・エスピリト・サント(Cruz do Espírito Santo)に1990年に生まれた。
父親はルイス・ゴンザーガ、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、エリス・レジーナなどを聴き、母親もギターをつま弾き歌うという音楽好きの家庭で育ち、サロマォン少年も街のバンドでサックスを吹いたりパーカッションを叩くなど音楽に浸って成長した。
2008年から作曲や編曲に没頭し、サンパウロに移住しエルメート・パスコアール・グループの鍵盤奏者アンドレ・マルケス(André Marques)に師事。音楽院でポピュラーピアノを学び、2017年にはスイスのモントルー・ジャズフェスティヴァルのピアノコンクールのファイナリストに。
これまでにエルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)、トニーニョ・フェハグッチ(Toninho Ferragutti)、レニー・アンドラーヂ(Leny Andrade)など巨匠たちとも共演し、ここ数年のブラジル音楽界で最も注目されるピアニストのひとりとなっている。
Salomão Soares – piano
Paulinho Vicente – drums
Felipe Brisola – double bass
Guests :
Seamus Blake – tenor saxophone (4)
Stephanie Borgani – vocal (7)