バルセロナのジャズ集団、SoulCareによるレノン=マッカートニー名曲群の素敵すぎる再解釈

Soulcare - Into the Soul of Paul & John

ビートルズの名曲群をスペインのジャズ集団「SoulCare」がカヴァー

ソウル・ミュージックやジャズ、ロックに感化され、新型コロナ禍で“人々の魂を癒すために”結成されたスペイン・バルセロナのバンド、ソウルケア(SoulCare)によるビートルズ(レノン=マッカートニー)曲集『Into the Soul of Paul & John』がリリースされた。誰もが知る名曲から、熱心なファン以外にはそれほど知られていないような曲まで10曲を選び、独自のアレンジを加えた作品となっており、ビートルズの音楽に関心がある多くの人々に訴求できる内容になっている。

SoulCare の中心メンバーはヴォーカルのジャン・ガスライン(Yann Gaslain)、鍵盤とハーモニカのロドリゴ・パーレン(Rodrigo Pahlen)の二人で、ほかにギタリストのオクタビオ・エルナンデス(Octavio Hernandez)、同じくギタリストのパトリック・ペトルチェリ(Patrick Petruchelli)、トランペットのギジェルモ・カジエロ(Guillermo Calliero)といったバルセロナを代表するミュージシャンが参加している。

アルバムの幕開けはポール・マッカートニーとスティーヴィー・ワンダーによる1982年発表の共作曲「Ebony and Ivory」。ここではカメルーン出身のスーパー・ベーシスト、リチャード・ボナ(Richard Bona)がベースとヴォーカルで参加し、全ての人類の調和を願う名曲を共に歌い上げている。

リチャード・ボナをゲストに迎えた(1)「Ebony and Ivory」

ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる(2)「Imagine1」は、原曲をリスペクトしながらも大胆なアレンジが加えられており、下手をすればすぐに原曲や他のカヴァーと比較されるこの名曲に完全に独自の視点で新しい味わいをもたらしている。ソウルフルなジャン・ガスラインの声が美しいが、同時にその歌声は、この曲が発表されてから半世紀以上も経つというのに人々が未だに戦争を続けているという悲しい事実を嘆くようにも聴こえる。

(6)「Yesterday」はギネス記録としても認定されている“世界で最も多くカヴァーされた曲”だが、今作のカヴァーほど良いものは他にあまり思い浮かばない。今作の他の曲に比べるとリハーモナイズは控えめだが要所要所でセンスの良い編曲が組み込まれており、アコースティックのピアノやガットギターによる豊かで軽やかなハーモニー、シェイカーやエレクトリック・ベースが生む優しいグルーヴがジャン・ガスラインのヴォーカルに見事にハマっており、素晴らしい。

(6)「Yesterday」

(4)「Let It Be」はピアノとヴォーカルのデュオを軸に、ソロはギジェルモ・カジエロのトランペット。ギジェルモ・カジエロは(7)「Eleonor Rigby」での縦横無尽な演奏も素晴らしい。

(9)「Blackbird」のアレンジも素晴らしい。ゲスト・ヴォーカリストとしてヨハンナ・ゾーラー(Johanna Zohler)や弦楽四重奏も参加し、曲の本質を保ちながらも想像力を膨らませ、原曲の世界観を最大限に拡張するような豊かな再解釈を披露。アルバムのハイライトとなる1曲と言って良いだろう。

(9)「Blackbird」

ポール・マッカートニー/ジョン・レノンの楽曲をカヴァーすることは、プロのミュージシャンにとっては相当に勇気の要るチャレンジだが、SoulCare は独創的なアレンジによる期待以上のアウトプットで見事にその重圧を跳ね除けた。ビートルズの再解釈は玉石混淆だが、これは“玉”の中でも上位に位置するものであることは間違いない。

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  1. Imagine…当初ジョン・レノン単独のクレジットだったが、歌詞は1964年に発表されたオノ・ヨーコの詩集『グレープフルーツ』に収録されている詩から着想を得ており、のちにレノンは「この曲はレノン/オノの曲としてクレジットされるべきだった」と話している。 ↩︎
Soulcare - Into the Soul of Paul & John
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