カナダを代表するピアニスト、リニー・ロスネスは新作でブラジル音楽への深い愛情を結実させた

Renee Rosnes - Crossing Paths

リニー・ロスネス新譜は彼女が愛するブラジル音楽集

カナダを代表する女性ジャズ・ピアニストのリニー・ロスネス(Renee Rosnes)の2024年の新作『Crossing Paths』は、彼女のブラジル音楽への強い愛が存分に注がれた一枚だ。エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)やエドゥ・ロボ(Edu Lobo)、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)、ジョイス・モレーノ(Joyce Moreno)といったブラジルの偉大な芸術家たちの作品を9曲選び、曲によってはゲスト・ヴォーカリストとして作家自身(!)を迎え、本格的なブラジリアン・ジャズを披露している。

全編ブラジル音楽というのはリニー・ロスネスの長いキャリアの中でも初めての試みだが、彼女の1995年のアルバム『Ancestors』では冒頭にエドゥ・ロボ作曲の名曲「Upa Neguinho」が収録されていたし、1999年の『Art & Soul』ではエグベルト・ジスモンチの「Sanfona」をカヴァー、その後の作品ではジョビンをカヴァーするなど、これまでも随所でブラジル音楽を参照してきた。今作では冒頭に紹介した以外ではカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)やジルベルト・ジル(Gilberto Gil)、ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)など、彼女のブラジル音楽遍歴がしっかりと窺える選曲でファンの耳を楽しませてくれている。

アルバムには所謂ボサノヴァやMPBの楽曲が多いが、幕開けはクラシックやジャズ、ブラジル民族音楽の高度な融合と言えるジスモンチの(1)「Frevo」。この曲に限らないが、今作でのアレンジは原曲に忠実で聴きやすく、逆にいうとアルバムの主体であるリニー・ロスネスの個性は抑制され、作曲者や楽曲自体のクオリティの高さを引き立てるような編曲デザインとなっている。

エグベルト・ジスモンチのカヴァー、(1)「Frevo」

バンドのメンバーも豪華だ。ブラジル音楽に欠かせない楽器であるギターにはブラジル出身のシコ・ピニェイロ(Chico Pinheiro)、ベースに現代ジャズにおける最重要ベーシストのひとりジョン・パティトゥッチ(John Patitucci)、ドラムスにはチック・コリアの「オリジン(Origin)」バンドに参加したアダム・クルーズ(Adam Cruz)という布陣を基軸とし、いくつかの曲ではサックスのクリス・ポッター(Chris Potter)、トロンボーンのスティーヴ・デイヴィス(Steve Davis)といった巨匠たちも華を添える。

極めつけは“スペシャル・ゲスト”としてクレジットされているエドゥ・ロボ(1941年生まれ)とジョイス(1948年生まれ)だ。エドゥ・ロボは(2)「Pra Dizer Adeus」と(5)「Casa Forte」、ジョイスは(6)「Essa Mulher」と、それぞれ自身のオリジナル曲で衰えをまるで感じさせない素晴らしい歌を披露。リニー・ロスネスはあくまでもレジェンドの引き立て役にまわり、おそらくは彼らの音楽の一人の大ファンとして彼らの歌唱を楽しんでいる。

エリス・へジーナ(Eris Regina)が歌ったことで知られるジョイスの名曲(6)「Essa Mulher」のカヴァー

A.C.ジョビンの(4)「Canta, Canta Mais」と(9)「Caminhos Cruzados」にはジョビン後期のバンドであるバンダ・ノヴァ(Banda Nova)でコーラスを務めたマウーシャ・アヂネー(Maucha Adnet)がヴォーカリストとして参加するなど、今作はリニー・ロスネスの“本気”がしっかりと反映されている。

Renee Rosnes – piano
Chico Pinheiro – guitar
John Patitucci – bass
Adam Cruz – drums

Chris Potter – saxophone
Steve Davis – trombone
Shelley Brown – flute
Rogerio Boccato – percussion
Maucha Adnet – vocal (4, 9)

Special Guests :
Edu Lobo – vocal (2, 5)
Joyce Moreno – vocal (6)

Renee Rosnes - Crossing Paths
Follow Música Terra