コロンビアのSSWマリア・クリスティーナ・プラタがギターと声で魅せる、南米音楽の詩情と滋味

Maria Cristina Plata - Casi Te Creo

SSWマリア・クリスティーナ・プラタ新作『Casi Te Creo』

コロンビア出身のギタリスト/シンガーのマリア・クリスティーナ・プラタ(María Cristina Plata)の新作『Casi Te Creo』は、声とギターを中心とした深みのある抒情が美しい南米音楽作品だ。全10曲のアルバムには彼女のオリジナルと中南米スペイン語圏の音楽家たちのカヴァーがバランスよく収録され、彼女自身によるギターと声を中心とした感性豊かなアコースティック音楽を堪能できる。

アルバムは(1)「Casi Te Creo」と、そこから同じようなリズムとコード進行、BPMで流れるように移行する(2)「Dile Que Por Mí No Tema」で幕を開ける。前者はマリア・クリスティーナと、妹でルナレ(Lunalé)の芸名で活動するSSWマリア・アレハンドラ・プラタ(María Alejandra Plata)の共作曲。後者はキューバ出身でキューバ革命1後にアメリカに亡命した歌手セリア・クルス(Celia Cruz, 1925 – 2003)が歌った曲のカヴァーで、いずれも南米らしい哀愁を纏ったシンプルで美しい短調のワルツだ。低音を支えるコントラバス、3拍子のリズムを刻むギター、そして高音で対旋律を奏でるレキント2の編成によるアンサンブルも深みがあり美しい。

(2)「Dile Que Por Mí No Tema」

(3)「Yo Lo Comprendo」はメキシコの作曲家ロベルト・カントラル(Roberto Cantoral, 1935 – 2010)によって書かれた情熱的なボレロのカヴァー。(4)「Y Volviste a Decir Te Amo」は再び、互いに音楽家として刺激し合う妹のLunaléことマリア・アレハンドラの作曲を取り上げている。

(4)「Y Volviste a Decir Te Amo」

悲劇的な最期を遂げたアルゼンチンの女性詩人アルフォンシーナ・ストルニ3について歌った名曲(8)「Alfonsina y el Mar」(アルフォンシーナと海4)のカヴァーも素晴らしい。最初にメルセデス・ソーサ(Mercedes Sosa, 1935 – 2009)が歌い、その後中南米の多くの女性アーティストによって歌い継がれ続けているこの曲を、マリア・クリスティーナはギターを手に弾き語りで歌う。

(8)「Alfonsina y el Mar」

Maria Cristina Plata 略歴

マリア・クリスティーナ・プラタはコロンビアのサンタンデール県都ブカラマンガ生まれ。ラテンアメリカのフォルクローレに深い影響を受け、ギターをメインにティプレ、クアトロといった伝統楽器も演奏する。音楽キャリアは16年以上にわたり、アンデス音楽とラテンアメリカ音楽を融合させた独自のサウンドで知られている。

2006年にデュオ、Trapiche Molé(トラピチェ・モレ)でロデューサー兼ヴォーカリスト/ギタリストとして活動を開始。2010年にはコロンビアで最も重要なフォルクローレ音楽フェスティバルである Festival Mono Núñez(モノ・ヌニェス・フェスティバル)でグランプリを受賞した。このデュオでは3枚のアルバムをリリースし、数多くの音楽賞を獲得している。

ソロアーティストとしては、2014年にデビューアルバム『Todas las Flores』を発表し、その後『Después de Todo』(2017年)、『Como el Mar』(2021年)をリリース。『Como el Mar』はコロンビアの主要メディアから2021年のベストアルバムの一つに選ばれている。

2022年には米国のフォーブス誌により、ニューヨークのタイムズスクエアに出演したことでコロンビアの女性アーティストを代表する存在として注目された。同年にはSpotifyの「Equal」プログラムの国内大使に任命。彼女のキャリアを通じて獲得した19の国内賞は、その才能と音楽への貢献を物語っている。

María Cristina Plata – vocal, guitar, cuatro
Beto Ojeda – guitar
Wilmar Cediel – requinto
David Cuervo – contrabass
Kike Harker – contrabass

  1. キューバ革命…1959年にフィデル・カストロやエルネスト・チェ・ゲバラを指導者として、バティスタ政権を打倒した社会主義革命。これ以降、同国の音楽産業は国家のプロバガンダに利用されるようになったため、セリア・クルスなど一部の著名な音楽家は政治的抑圧や自由の制限を理由に主に米国に亡命することとなり、これが海外においてキューバ音楽がさらに広まるきっかけともなった。 ↩︎
  2. レキント(requinto)…一般的なクラシックギターよりも小型の弦楽器。メキシコなど中南米の伝統音楽で多く用いられる。 ↩︎
  3. アルフォンシーナ・ストルニ(Alfonsina Storni, 1892 – 1938)…アルゼンチンを代表する詩人で、ラテンアメリカのモダニスモ運動に関連する重要な人物。スイスのイタリア語圏で生まれ、幼少期に家族と共にアルゼンチンに移住した。彼女の詩は、女性の視点や感情を強く反映し、愛、孤独、抑圧、自由などのテーマを扱っている。晩年は乳癌に苦しみ、一般に広まっているロマンチックな伝説によれば、彼女は真夜中の海岸でゆっくりと沖へと歩いてゆき、水死した(実際はClub Argentino de Mujeresの桟橋から身を投げたとされている)。 ↩︎
  4. アルフォンシーナと海(Alfonsina y el Mar)…アルフォンシーナ・ストルニの死にインスパイアされ、アルゼンチンの作曲家/ピアニストのアリエル・ラミレス(Ariel Ramírez, 1921 – 2010)が作曲し、同国の家フェリックス・ルナ(Félix Luna, 1925 – 2010)が作詞したアルゼンチン・サンバ。歌手メルセデス・ソーサの1973年のアルバム『Mujeres argentinas』(アルヘンティーナの女)に初収録された。 ↩︎
Maria Cristina Plata - Casi Te Creo
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